独り占め

通販のちらし軽くも扇風機

いよいよ梅雨が近づいてきて風は湿っぽい。

外気を入れるがそれでもすかっとしないので扇風機を軽く回す。
独り占めだからその場を少しでも離れるとたちまち蒸し暑さに辟易するので、いきおい席を立つのも最低限にとどめる。
運動不足をますます助長するようでこれではいかんと思うのだが。

外海

塩焼の梭子魚かますに残る鱗一片

梭子魚はあの匂いが苦手という。

それでも買ってくるのは夫が美味そうに食うからだと。
金婚も過ぎて初めて聞いた言葉に戸惑う。
たしかに、今日食ったのは塩焼で、関東でよく食った干物に比べれば水分が抜けてないせいか生臭いようである。
梭子魚は伊豆や小田原あたりで買う干物が一番うまい。海に生活排水が流れ込むことが少なくて、沿岸の海水自体に生臭みがないのかも知れないなどと考える。東京湾で釣る魚には潮の速いところを回遊するスズキですら川水の匂いがして、自分で釣ってもあまり食いたいと思わない。
その点外海で釣った魚にはあまり臭みがなく、どんな魚でもおいしくいただけるようである。

敵討ち

灼け板に不覚とられて油虫

日中のバルコニーの熱さは半端じゃない。

うっかり裸足で歩こうものなら火傷をおいかねないほどだ。葭簀でもかけておけばいくぶんかは和らぐだろうが、そうたびたびは出ない場所なので放置したまま。それがかえって、忘れたころに再び熱い思いをするから厄介なのであるが。
越してきて十年以上も経つと、そんなバルコニーにも油虫、関東ではごきぶりだが、が侵入することもある。昨日などは床の熱さだろうか、やけにのろいのが這い回っているのでたやすくサンダルの底で打つことができた。ここで遭ったが百年目とばかり敵討ちできたわけだが、無様にひしゃがれた奴を見ているとそこまでする必要があったのかどうか、後になって少しばかり気が引けるのであった。

潮風

海たりし地の屋高く麦酒園

梅雨入りが遅れている。

遅れて困るのは水が命の農家であるが、長いことサラリーマン生活を送っているときこの時期の社を出たあとの時間の楽しみと言えばビール園だった。職場の仲間と連れだってジョッキのお代わりを楽しみ、枝豆をぱくつく。
この時間があればこそ、一日のいやなことなどきれいさっぱり洗い流され上機嫌でみんな地下鉄に消えていく。
つくづくと思うのだが、社のみんなと吞むときはやっぱりぺいぺいの時代がいちばん輝かしい。昇進がちらついてくるような年代になると、どこかよそよそしくなったり、吞む仲間が固定してきたり、心から冷たいビールを楽しめなくなるのだった。
今は自由でいつでも呑めるようにはなったけど、どういうわけかノンアルコールしか受け付けなくなったのはまた淋しいものである。

様変わり

独り来て植田みるみるうまれけり

いつもの景色と違った。

どうやら今日田植えしたらしい。
この辺りではまだ一枚目だが、週末の明日はあっという間に周りの田も植え終わるに違いない。
棚田なので規模はそう大きくはなく、一枚植えるにも短ければ一時間ほど、長くても二、三時間で終わってしまう。
昔のように家族総出で植えるという景は見られない。たんたんと田植機が田に入って、何往復かしてそれでおしまい。
田起こしに始まって、畦塗り、代掻き、どれも機械でやるのでほとんど独りで済ませてしまう。
子供の姿などはいっさい見られない、田植え光景も様変わりである。

生存競争

地生えして密なる紫蘇の大競争

いつものようにこぼれ種が一斉に発芽した。

いったいどれが生き残るのか。あるいは人が手助けしないと共倒れに終わるのか。
そんな三密世界から一歩離れて悠々と育っているのもいる。結局どれかに絞ってやらないと、畑が紫蘇ばかりになってはかなわない。密集の一団はいずれ消えてもらうほかなさそうである。

純白

山梔子のけさ健やかな真白かな

今のところ虫の害にはあってない。

花の時期になると決まって青い虫に丸裸にされていたのだが、今年は違うようだ。
何が要因か知らないが、いずれにしてもありがたい。
何年かぶりに健康的な真っ白な花が復活して玄関先が明るい。
最後まで無事に済むよう毎日こまかにチェックしておこうと思う。