思案も楽し

緑陰にパンフ拡げて旅のこと

木陰のテーブルから笑い声がもれる。

何やら資料らしきものをテーブルに並べて、楽しそうだ。
夏休みの計画でも立てているのかも知れないなと思った。

すべて世は事も無し

麦秋やふいに畑に鳥落ちる

小津の映画の光景はもうない。

かろうじてある一画だけが残されているが、残念ながら三輪山の裾は人家がたてこんで、三輪山を借景としたふるき大和の風景はもう望めないのである。
句友といっしょに眺めていると、たまたま目の先に降りてくる鳥影がある。雲雀だ。絵に描いた通りにである。
直接巣のそばには降りないと聞いているが、まずはあのあたりに巣があるのだろう。
一羽は相変わらず頭上で名告りをあげている。

静かな会話

車椅子に耳許寄せて花卯木

卯の花が早くも散り始めたようだ。

その卯の花に沿うゆるいスロープをつたって車椅子で行く夫婦がいる。押す手を止めてなにごとかささやいているような、あるいは何かを聞き取ろうとしているのか、それは分からないが、卯の花のことについて言葉を交わしているように見えた。
青葉晴のすがすがしい空気の下で、いいものを見せてもらった。

テレビ会見

テレビでは強弁ばかり梅雨寒し

梅雨のような日が続く。

沖縄・琉球地方ではとっくに梅雨入りしたことだし、この雨を梅雨と見立てても問題はなかろう。

権力と謙虚というのは、最近ではまったく相反することらしい。

もの言わぬ花に

よそよりはちょっと遅れる杜鵑花かな

ようやく杜鵑花が咲き始めた。

世の中だんだんと花の時期が早まっているのに、このさつきだけ遅れるというのはどういうことなんだろう。
さつきというとゴールデンウィークの花という固定概念があって、今頃咲かれても興ざめの極みだが、花に花の理由があるんだろう。
主の手入れが悪いと言ってむくれているのかな。

スタンドで

工場のなかが産屋よ燕の子

ガソリンスタンドの工場で燕がしきりに出入りしている。

整備工場のなかに巣をかけたようである。
主に聞けば、夜はシャッターをおろしているという。
民家であれば、家人も同居しているので早朝から賑やかに鳴いて催促もできるだろうに、翌朝は主がシャッターを開けてくれるまでやきもきしてるのだろうなと想像するだけで、なんといじらしい生き物よと思ってしまう。

クールスクール

機上はや彼の地のこころ更衣

外人旅行客のなんと身軽な服装よ。

われら日本人よりよほど更衣は早く、Tシャツに短パンが闊歩している。
逆に我らだって、彼の地に旅するときは意外に身軽に出かけてもいる。
旅のこころがそうさせているのかも知れないが、服装にかぎらずやはり旅はいいものである。

毎朝決まったように駅へ駆け下りてゆく子がいつの間にか、ジャケットを脱いでブラウスだけになった。
身軽にはなったが、小柄な体に不似合いなほど大きなショルダーは相変わらずで、ローファーをペタペタ鳴らして駆け抜けていくのも変わりがない。
昨今は学校の更衣も一斉にではなく、気温にあわせて各自が自由に判断できるようになったとか。クールビジネスの時代、クールスクールだって当然だろう。