ドロップハンドル

初霜の消えて甘藍光りけり

目が覚めると霜だという。

寝室から向かいの駐車場をみると、車のボンネットやルーフにうっすら白いものが降りているのが見えた。
今年の初霜である。
あれだけ暑い秋の日々が続いたのに、ときが至れば来るものは来る。あえぎあえぎ呼吸しているが地球はまだリズムを失っていないのに救われる。
霜が降りるくらいだから高気圧は真上にあり、天気はいい。散歩には十分な陽気につられて午前中も歩いたが、午後も出かけたくなった。ただ、この二十年ほど脊柱管狭窄症による間欠性跛行に悩まされている私は、わずか五分の歩行でも両足が先まで痺れるような痛みがあり、休み休みでないと長くは歩けない。そこで午後の散歩はあきらめ久しぶりに自転車で出かけることにした。ドロップハンドルのバリバリのロードバイクだ。
当地に越して道路事情など思わしくないことなどを言い訳にすっかり遠ざかっている。身長も縮んでいるようだし、サドルを1センチほど下げるがそれでも恐いほどの前傾姿勢である。しかも家の前は坂道である。
思い切って漕ぎ出すと最初はふらふらするが、次第に視線を遠くにやれるようになっていくらか安定してきた。こうして腰への負担は緩和されたが、使う筋肉はどうやら違うようで太股の裏やふくらはぎが張るようだ。
健康のための運動がかえって害にならないよう、安定した走りになるまでしばらく続けないといけないようである。

飽きない

泥皮の一枚下の葱美人
泥付の葱やうやうとひつさげて

今日から寒くなると聞いてはいたが、昼間は意外に穏やかに過ごしやすかった。

散歩ついでに畑に寄ったがそうなると何かしたくなるもので、家にもまだ在庫があるはずの葱を抜いてみた。いま穫れるものと言えば葉物、それに大根か葱くらいのもの。ふたりきりの暮らしだからたいした量もはけないので余るばかり。ともすると同じメニューばかりの日が続くが、これが意外に苦にならないのは味に癖がないうえに家人の工夫のなせる業かもしれない。
今日も抜きたての葱をぶら下げながら帰途についた。

バックミラー

燃料の目盛減るなる小六月

暖かいのは今日までと言う。

風は強くてバイクは要注意だが、寒くはなくてどこまでも走れるような気がする。燃料計の針を見るとそろそろ補給すべきレベルまで来ているが、もうしばらくこのままで行こうと思った。
荷台に積んだ蕪とネギの束がぱたぱた揺れるのをバックミラーが映している。

BGM

長電話飽きたるころの笹子かな

冬に入って初めて笹鳴きを聞いた。

実は今年は同じ場所で秋の九月にも聞いているのだ。
老鶯がまだまだ元気なじぶんに笹鳴きとは、それまで聞いたことがないので驚くばかりだった。
さすがに11月も後半に入ると鶯の歌は聞こえないが、入れ替わりに笹鳴の季節となる。この極端な鳴き方の変化は驚くしかないが、彼らにはそれなりの何か意味があるにちがいない。
冬日を受けた野などに笹鳴きを聞けば冬だなあという気分がいやが応にも高まってくる。これが天気がよくて陽だまりにいようものならもう春は近いとさえ思うものだが、さすがにこの季節は小六月の気分を楽しむに十分なBGMと言えるかもしれない。

追熟

焼藷の蜜のからみ来親指に

今日は紅あづまの焼藷を堪能。

最近人気の紅はるかの甘さには劣るがホクホク感はやっぱり紅あづまの勝ちかと思われる。そのバランスがいいのだ。今年は二系統の藷を育ててみたが、それぞれの良さがあって来年も二種とも植えることになろう。
例によって指が火傷しそうなくらい熱いのをもてあそぶだけで指が蜜でべたつく。それだけ糖分が増してきたと言うことだろう。やはり収穫後一か月ほどおいて追熟させた方がはるかに甘くなることを実感した一日であった。

堪能

昼飯をはさんで野良に冬ぬくし

見事なくらい風もなく穏やかで暖かい一日。

軽装で外を歩くには最高の日である。それでも十数分歩けばほんのり汗ばんでさえきた。
菜園ではまるでピクニックに来たかのように、数人の女性連が一カ所に座り込んでおやつなどを囲み談笑している。通りすがりの私も蜜柑ひとつをご馳走になり、乾いた喉をうるおす。
小学校からは休憩時かと見えて子供たちの元気な声も届いてくる。
ここしばらく周期的に雨がきて寒い日もあるが、おおむね過ごしやすい日がつづいている。
午前も午後も小六月を堪能した一日となった。

白い明かり

十年の庭に山茶花馴染みきし

半日陰がいいという。

それで、隣家との目隠しも兼ねて北東側に植えたのだが、以来かれこれ十年がたとうとしている。
人の丈ほどに伸びて当初の目論見どおり、外からの視線を遮るには十分な高さである。色は白を基調に淡い朱が混じり、足もとに散った花片ともども鬼門の辺りを少しく明るくしている。
これまで剪定を行わずにきたが、それなりに姿形は乱れていないし、しばらくはこのままでいいと思われる。