麻痺

冷麦の薬味にどれと庭のすみ

気取って食べるものでなし。

ここのところ昼食は冷素麺か冷麦と決まっている。ネギや茗荷、紫蘇などは庭から穫ってくる。
何しろ午前中からエアコンの効いた部屋にいるという異常な毎日の暑さである。
体につきまとうような蒸し暑さがつづくとおのずと食欲は減退するものだが、喉ごしがつるりとするこれらはいっときの暑さを忘れさせてくれる。
地元の三輪素麺はもちろんうまいのだが、本格的なものになると高級すぎるので滅多に口に入らない。なあにどこの素麺だって冷たくして食べれば味覚も多少は麻痺して大差ないように思うのである。

発芽半作

こつち来い夕立雲に呼びかける

今日もまた空振りだった。

いつものようにすぐ西の空が真っ黒なのに南東の方向へ流れてゆく。ひと雨来れば野菜たちも喜ぶだろうにただ恨めしく見送るだけ。
夕立雲の傾向はどうも信貴山にぶつかって左右に分かれるようである。標高400メートルちょっとしかないのに空気の流れにそんな影響をもたらす力があるのだろうか。おそらく県境の大和川を隘路としてそこが鞴となって空気の流れがあり、その引力で夕立雲も引き込まれるのにちがいない。そこで大和川に沿って夕立が走ってゆくのだろう。それが盆地西端大和川北岸エリアに雨が少ない理由に違いない。ただでさえ盆地は水が少ないというのに当地は雨に恵まれない。
かくして今日も菜園へポリタンに水を捧げ持ち行く。
人参第一弾の種まきのためだ。人参は発芽さえしてしまえば大きな問題はないと言っていいほど大事だが、そのためには湿り気が欠かせないのである。

五感

炎帝の機嫌よろしうやう生きる

立ちくらみしそうな暑さだった。

草刈中いきなり立ち上がるとクラクラする。
体温マックスに達していたろうから血管は最高レベルまで膨張していたに違いない。しかも循環系に問題ある身としては柔軟度もいちじるしく衰えていただろうから、許容範囲は狭くなっているはずだ。
そんな極限に近い状況で急に立ち上がったりすれば反応が伴うことは難しくなって立ちくらみに近い状態になるのであろう。
もし、これに熱中症が加われば命に直結したかもしれないと思うと、夏場の昼間の作業はもうやばい年齢にあるということでそれをちゃんと自覚しなければならない。
今日は雨がしっかり降るという予報を信じ、空もまた曇であるからたいして暑くならないだろうと油断したのがいけなかった。五感を動物的につかみとって自分を守るしかなさそうである。逆らってはいけないことをあらためて学んだ。

自前

いちどきに獲れるものなり茗荷の子

雑草に隠れて気づくのが遅れた。

あまりにも暑かった今日。余熱が強烈なので夕方玄関周り、庭など水を打つことにした。
いくらか涼しくなった気がしたので、思い切って茗荷のあたりの草を押しのけてみると、すでに咲きかけた茗荷が点々と存在を訴えている。
このままでは時期を逃してしまうと思い、蚊の襲来を受けながらも両手にあまるほどの茗荷の収穫があった。
昼は冷たいそばや素麺が多いが、自前の紫蘇、オクラに今度は茗荷が加わることになる。
ありがたいことにトマト、茄子、胡瓜、ピーマン、シシトウなど自前の野菜中心にまわる毎日である。

グルメ

おかもちの蓋ももどかし鰻飯

師宅を表敬すればかならず地元老舗の鰻重か天丼が出る。

天丼は冬で、そのほかの季節は鰻というふうに、伺うたびひそかにその味を楽しみにもしていた。
いずれも味では有名どころで、グルメの師匠も太鼓判を押す名品である。
その先生も二十年以上もまえにお亡くなりになり、鰻の季節になると先生の豪快な笑いを思い出す。
それにしても鰻の今日の高値を誰が予想したろうか。高級を通り越して庶民には手が届かないものになってしまったのは悲しいことである。

中干し

噴水の及ばぬところ雲のあり

こう暑いと水が恋しい。

加えて風があればいい。
とくると滝壷や、噴水の飛沫を浴びられるそばがいい。
と言って近場にそんないいところがあるじゃなし。
水と言えば、菜園の周囲の圃場はどうやら中干しの時期に入ったらしい。いつもの日曜なら溜池から水が配られるのだが、今日は当てが外れたので家からポリタンクでせっせと汗をかいた。

棟と棟

金輪際鳴かずばならず蝉七日

はやくも鵙の高鳴きを聞いた。

今日は大暑というのに。
そう言えば実質梅雨明けしたばかりだが、当分は35度を超える日はなさそうである。今日の空気は湿度50%台。軽やかで涼しい風である。まるで昔のお盆の頃の朝のようであった。
ただ、蝉はクマゼミ全盛期の世界で、朝のしばらくは棟と棟で響き合ってそのやかましいことこのうえない。夕方に庭の胡瓜になにげなく近づいたら大きなクマゼミが眼前をかすめていって驚かせた。どうやら庭先のあちこちで夜を過ごしているらしい。この分では次世代も庭に産み落としてゆくのだろう。
アブラゼミを身近に見なくなって久しい。