女所帯

先代の嬶とりまはす種物屋

買い物ついでに種屋に寄った。

ここは一代で築き上げた名物先代が亡くなり、二代目となってちょっと遠いが広い敷地に移転した。
ときどき寄ってみるがそういう二代目の顔は一度も見かけたことはない。代わりに先代の夫人と思われる女性が店の真ん中にどでんと立って、客をてきぱきとさばいている。あとは長年務めているとみられる女性従業員が一名、アルバイト女性が若干という、女だけで切り盛りしているようである。
ホームセンターの園芸コーナーとはちがって、さすがに種屋の専門店であるだけに客の質問への受け答えやアドバイスの数々も安心感がある。
二代目は当初Facebookによる発信など新しいことも手がけていたようだが、今ではまったくその気配もなく一体どこへ行ったやら。修行のため外の飯を食いにやらせたのかもしれないが、今の女所帯で十分店を切り盛りできているのでしばらくは帰ってこなくても客は少しも困らない。

殺風景

雛の日の畳のかへす日のやはら

和室にいると光が柔らかく感じる。

お隣が建ってから朝の日当たりが悪くなった部屋だが、さすがに弥生三月ともなると日が高くなり明るく照らすようになった。日向を求めて猫どもも移動するし、飼い主も日向ぼこりとばかり胡座をかいて何するわけでもなく時間を過ごすようになった。
雛人形を飾ることもない部屋は殺風景だが、それなりに優しい時間が流れている。

新顔

一発で車庫入れ決めて春めける

朝からのこぬか雨が止んで暖かい日となった。

外へ出ると万物がいまにも動き出しそうな気配がかしこに漂う。
明後日は啓蟄。虫たちの季節も始まるのだ。
待ちかねた春を実感できるようになると、何をやるにも弾む心地を禁じ得ない。
スーパーの駐車場だって真っ直ぐとすんなりと入れることができた。
夏野菜のトップバッターとしてナスとピーマン、シシトウの種を仕込んだ。これから約二ヶ月の育苗期間が始まる。
キジ虎君が亡くなって二日。もう新顔が顔を出した。みぃーちゃんには落ち着いた日は簡単にはこないようである。

悔恨

通ひ猫律儀にけふの春の雨

弥生は雨で始まった。

ここ二三日暖かい日が続いたので、意外に冷たく感じる春の雨だった。
しかし、雨が苦手なみぃーちゃんにとってはこの程度なら立ち止まってみせる余裕があるらしい。
昨日昼前の話だが、そのみぃーちゃんを目当てに日参していた雄のキジ虎猫が、目の前の道路で車にひかれたとお向かいさんが知らせてきた。
事故の後最後の力を振り絞ってお向かいさんの駐車場までたどりついたが、どうやらそこで力尽きて息を引き取ったようだった。即死である。
奥さんはどうしていいか分からずに助けをもとめてきたので、役場に遺体を引き取ってもらうべく電話すると、民家の敷地では主が袋に入れるなりして手渡さなければならないというルールがあるという。
そこで段ボールを用意してキジ虎君を収容したが、その身体はまだ温かさを残して柔らかかった。しかも、しっかり肥えていて毛艶もいいしどこかでご飯をしいっかり食べている子にみえた。飼い主の知らないところで勝手に処分するのは、どうして消えたのか知るよしもない飼い主の気持ちを考えるとただ申し訳なさに心が痛むのであるがやむをえないことであった。
毎日やって来てはみぃーちゃんにつきまとうのでその都度追っ払っていたが、そのキジ虎君があえない最後をとげたと思うともう少しやさしくしてやるんだったという悔恨になかなか寝つけなかった。
そのみぃーちゃんは知ってか知らずか、今日も雨の中ビニ−ル温室のハウスからでてきて餌を食べている。この春で十歳になるのでいつ何があってもおかしくはないが、交通事故だけには気をつけてと願うのみである。

菜の花に

茎立菜手折りて揺るる花蕾かな

小蕪の名残が薹立ちしていた。

蕾にはうっすらと黄味が乗り始めており、このまま放置すれば菜の花となる。
柔らかそうな花雷を密につけているのを一本折ってみた。すると小気味よくポキンと折れて食べ頃と分かる。
菜の花になるものは花が咲ききる前に摘めばどれもうまいと言うことである。
結球しきれなかった白菜やキャベツ。薹がたつまでしばらく畑においておこうと思う。

また明日

コンテナに光浴びたる薯芽かな

春らしい日がつづくようである。

そうなるとまずは手始めにジャガイモを植えるというのが素人ファーマーであろう。
店ではすでに芽が出始めた種芋が売られているのでそれを植えるだけである。
ただ、春らしくなったとは言っても地温はまだ冬のまま。発芽して地上に顔を出すには相当日数がかかる。桜の開花ごろに出てくれば理想と言うが、これからのお天気次第というわけである。
今日は昨日の作業の殘りを片付ける予定が予定通りとはいかなかった。殘りはまた明日。

遅ればせながら

水仙の遅参の花の申しわけ

気温が上がっていっぺんに忙しくなった。

本来寒の内にやっておかなければならなかったことをさぼっていたので、作業がとても一日では終わらなかった。それに、一日中とりかかる体力もなくて休み休みやるしかないためでもある。
とは言え、およそ予定の半分ほどを片付けられたのであと一日かければ何とか春の準備が整いそうである。
ひと休みの足もとにはそれまで気づかなかった水仙が芽を出してきていた。あやうく踏みそうになったが、これは昨年球根から育てて二年目のものである。季節的にはちょっと遅い気もするが、この冬が想像以上に寒い日が連続したことが影響しているにちがいない。