一足早く

実南天ひとつ落ちたる通ひ路

ドアを開けると赤い実がひとつタイルのうえに転がっている。

玄関脇の南天が早くから赤い実をつけていたので一つや二つ落ちていても不思議ではないが、落ちていた実には妙に生々しいつやがあり、いかにも今朝がた落ちたばかりという風である。
この実とあわせ、ここらは朝晩冷え込むせいか葉っぱまできれいな色に紅葉して玄関の脇をぐっと引き締めてくれている。
正月には欠かせない南天だが、玄関周りは一足早く正月の趣である。

低く漂う

鼻先へゆるり綿虫舞ひにけり

雨の前日、群れからはぐれた綿虫が庭に浮遊していた。

見るともなく眺めていると、当てがあるにはみえない風にふわふわと漂っていて、やがて顔、鼻の近くまで流れてくるとしばらくまたふわふわと漂っている。
こんなに近くまで寄ってくるのは初めてのことで、よく見ると漂うようでいて実はあるかないかの小さな羽をしきりに動かしているのだ。風がないので滞留時間は長く、じっくり見せてもらった。
虫が低く飛ぶのは雨の前兆だと聞いたことがあるが、もしかしてあれはそういうことだったのかもしれない。

人心地

とある日の雨やはらかき十二月

冬ぬくしのさなかの雨である。

午前中はどんどん曇り空が厚くなってきて気温が朝より下がってきたのではないかと思っていたのだが、午後になって雨となるや逆に柔らかく感じるほど暖かい空気に変わった。
ゆったりと人心地する時間に浸っていると、十二月の真っ只中にいるとことさえすっかり忘れるほどだ。
年末からは寒さが戻ってくるようなことを言ってるので、それまではせいぜい楽をさせてもらおう。

浮寝集団

広き川狭く使うて鴨の陣

小鴨が幅広い大和川のごく一カ所に密集するようなかっこうで群れている。

陣を敷くと言いうよりは、仲間同士集まって休んでいるようである。そう意味では浮寝の集団というほうが正しいかもしれない。
ここらはヒドリガモが多くいて川幅いっぱいに群れていたのだが、最近は数も少なくそんな光景も見られない。
環境の変化か、あるいはここよりはもっと居心地のいい場所が見つかったのか。渡り鳥にとってこの国がいつまでも頼りがいのある国であるように。

時間切れ

ストレッチ四肢よく伸びて冬ぬくし

足の小指を痛めて散歩に出られない日が続く。

運動不足はまずいので、せめてエアロバイクで有酸素運動し、最近流行の筋肉体操もやり、音楽がなくても体にしみついたテレビ体操をこなすなどすると、体がぽかぽか温まったりしていいことづくめ。
天気もよく、冬とは思えない暖かさに、しばらく思案していた庭の片付けにも着手。
ついでに洗車もしてやりたかったが、時間切れで今度に持ち越しとなった。

灯の役割

無灯火の少年寒さものとせず

家の前の坂を無灯火の自転車が猛スピードで下ってゆく。

寒い時期だから帰路をいそぎたい気持ちはわかるが、夕方の通勤で交通量が増えている時間だから、事故となったら簡単ではすまない、きわめて危険な行動であるのはあきらかである。
かつては足こぎで発電するランプが主流でその分ペダルが重くなるのが億劫だったけど、最近はリチウム電池を使ったLEDランプが明るいうえ、点滅するだけでも遠くから確認可能である。ランプは前照灯としての役割だけではなく、存在を知らせるものとしても大変有効であるので、若い人にはぜひ利用してもらいたいものだ。

菊仕舞

枯菊を焚いて平群の夕けぶり

風もなく煙りが山襞を埋めるように漂っている。

山に挟まれているので逃げ場のない煙がとどまっているのだ。
空はといえば久しぶりの大夕焼け。底は谷間特有の暗さがつのってきていて、幽玄な趣さえある平群の谷である。
平群町は小菊の産地。山が烟るのはおそらく山の菊畑を焼いているのだろうと思われる。田仕舞ならぬ菊仕舞である。