百草園

かたかごのかんばせ風に伏せしまま
かたかごのなぞへすなはち城の山
かたかごの花のしりへを城山へ
かたかごの花のなぞへに城下町
かたかごの褪せたる花のそよぎかな

森野薬草園は宇陀松山城の麓にある。

城下町の面影を強く残す町から急な石段を登ってゆくのだが、その途中の斜面がカタクリの群生地となっていて先月末から咲き始めた。
今年こそ行かねばとその時期を探っていたのだが、つい出遅れて今日になってしまった。案の定もう盛りは過ぎたとみえて、花は褪せが目立つ。それでも七曲がりする急磴の斜面いっぱいに咲いているのは壮観である。
振り返れば、持統天皇の薬狩りで有名な安騎野の広がりが眼下にある。
ツムラなどよく知られる薬メーカーのいくつかはここが発祥地である。
急磴を登り終わると薬草園が山の斜面にひろがり、その種類だけで200以上。文字通り百草園であり、ふだん見なれた草の大方は薬となると知って驚かされる。
薬草とはいってもそれぞれ花も咲かすわけで、カタクリだけではなく春、夏、秋といろいろな花も楽しめるようである。
花の季節も記したパンフレットがもらえるので、それを見ながら季節ごとにも楽しめそうである。

また、薬草園のすぐ脇を城山へ通じる立派な道が整備されていて、さらに500メートルほど行くと到着できるようである。
ここもまた、次回の楽しみにとっておくとしよう。

れんげうの寺

在五像厨子開かるる春の闇

昨日の続き。不退寺にて。

重文の聖観音像はじめ文化財が多いためか、堂内は扉一枚の出入りで暗い。
そのうす暗いなかで住職自らが解説する声が大きく響く。
在五朝臣制作とされる本尊の聖観音像、在五朝臣画像とも厨子に納められているが、画像の方は春と秋だけ特別公開となっており幸運にも訪問したときはご開扉されていた。ただ堂内全体がうす暗いうえに大きくはない厨子の中はさらにうすぼんやりと定かには見えないのである。
雰囲気としては筆をかざして思案中のようであるようにも見えるのだが。

いただいたパンフレットにある通り、今はちょうど本堂を取り囲むようにレンギョウが盛りである。
堂縁に腰掛けて庭に迎えば、大きな庇がレンギョウの明るい黄色に照り映えるように明るい。

れんげうの花の明りの堂庇

川幅佳し

佐保川の七分と見えて花の雲

不退寺へ向かう道筋の佐保川に出た。

毎年見事な花を見せてくれる名所で、七分咲きといったところだろうか。
きらきらと光る川面に幾分かの花片も流れているようだ。
もしかすると上流ではもっと咲き進んだのがあるかもしれない。
両岸の木から伸びた枝がふれあうばかりに花のトンネルをなして、川幅佳し、土堤よし、櫻佳し。
いいものを見ることができて、今日はそれだけで満足である。

あられまじり

ひとつまで聞きも流して春の雷

昨日に続き今日も不安定な天気。

午前中は春の時雨ともてはやしもしたが、夕刻になると今度はあられまじりの窓を叩きつけるような雨。
猫たちも何事かと窓の方へ顔を向けていたら、そのうち大きな雷が一発。さっと構えるような表情になる。
つい先日も雷があったばかりでまたかと聞き流していたら、今度はつづけて二三発。
思わず窓に駆け寄って空の様子を確かめる。
明日はまほろば吟行の予定で、明日の天気まで心配になってきた。

長閑

雪柳背なにまぶして猫帰る

雪柳が満開だ。

枝垂れた雪柳の影で昼寝でもしていたのだろうか、みぃーちゃんがのっそり顔を出してきた。
背中には散り始めた雪柳の花片が降りかかっている。
ちょっと肌寒い日ではあるが、日がよく当たるので雪柳の下は風も当たらず安心して昼寝できるのだろう。
まずはのどかな日曜日ということだろう。

音響空間

囀の竹林にあり見つからず

竹林というのはいい響きがする場所だ。

この中で、あるいは接するあたりで鳥が鳴くとほんとにいい響きに聞こえる。
そのうえ、竹林全体に響き渡るのでいったいどこで鳴いているのかさえ判然としなくなる。
節の間に空気をふくんだ反響体が乱立し、おまけに節の丸い形状が音を全方向に反射しあう効果もあって、竹林全体が格好の音響空間なのである。
声の主を見つけるのはあきらめて、囀りのオーケストラに耳を傾けることとする。

天満さん

桜葺く軒に日集め繁昌亭
天神の裏手明るき桜かな
昼席の開場待ちて亭うらら
昼席の太鼓聞こえて宮うらら

この春から月に一回天満宮近くにでかけることとなった。
今月で二回目だが、行きと帰りといろいろな交通経路を試してみるが、ことごとく乗り換え時には迷子になる始末。
まったく土地勘というものがないので、東西南北の見当がつかないのだ。
毎回グーグル先生の指示する予定より10分も15分も多くかかってしまうのだ。
ま、その分新しい発見もあるわけで、今日などはひょんな場所からあの天満宮さんを見つけたので、早速寄り道した。
天満宮さんはさすが浪華の神さんで、摂社末社の数がそれこそ「ハンパナイ」。
それをグルグル巡りながら参拝する信心篤い人もちらほらで、これも浪華らしい。

天満宮さんには六つの門があるとかで、その内のひとつのすぐ外に役者の出待ちでもしているような人集り。
なんだと近寄れば、繁昌亭だった。どうやら昼席の入場待ちの人のようで、10人づつくらい順番に呼ばれてなかへ入ってゆく。