静かな会話

車椅子に耳許寄せて花卯木

卯の花が早くも散り始めたようだ。

その卯の花に沿うゆるいスロープをつたって車椅子で行く夫婦がいる。押す手を止めてなにごとかささやいているような、あるいは何かを聞き取ろうとしているのか、それは分からないが、卯の花のことについて言葉を交わしているように見えた。
青葉晴のすがすがしい空気の下で、いいものを見せてもらった。

テレビ会見

テレビでは強弁ばかり梅雨寒し

梅雨のような日が続く。

沖縄・琉球地方ではとっくに梅雨入りしたことだし、この雨を梅雨と見立てても問題はなかろう。

権力と謙虚というのは、最近ではまったく相反することらしい。

もの言わぬ花に

よそよりはちょっと遅れる杜鵑花かな

ようやく杜鵑花が咲き始めた。

世の中だんだんと花の時期が早まっているのに、このさつきだけ遅れるというのはどういうことなんだろう。
さつきというとゴールデンウィークの花という固定概念があって、今頃咲かれても興ざめの極みだが、花に花の理由があるんだろう。
主の手入れが悪いと言ってむくれているのかな。

スタンドで

工場のなかが産屋よ燕の子

ガソリンスタンドの工場で燕がしきりに出入りしている。

整備工場のなかに巣をかけたようである。
主に聞けば、夜はシャッターをおろしているという。
民家であれば、家人も同居しているので早朝から賑やかに鳴いて催促もできるだろうに、翌朝は主がシャッターを開けてくれるまでやきもきしてるのだろうなと想像するだけで、なんといじらしい生き物よと思ってしまう。

クールスクール

機上はや彼の地のこころ更衣

外人旅行客のなんと身軽な服装よ。

われら日本人よりよほど更衣は早く、Tシャツに短パンが闊歩している。
逆に我らだって、彼の地に旅するときは意外に身軽に出かけてもいる。
旅のこころがそうさせているのかも知れないが、服装にかぎらずやはり旅はいいものである。

毎朝決まったように駅へ駆け下りてゆく子がいつの間にか、ジャケットを脱いでブラウスだけになった。
身軽にはなったが、小柄な体に不似合いなほど大きなショルダーは相変わらずで、ローファーをペタペタ鳴らして駆け抜けていくのも変わりがない。
昨今は学校の更衣も一斉にではなく、気温にあわせて各自が自由に判断できるようになったとか。クールビジネスの時代、クールスクールだって当然だろう。

近道

沈み橋人みあたらず走梅雨

通勤の人たちの近道である。

ここは斑鳩インターから下流の昭和橋、つまり国道25号線が越える橋だが、約3キロにわたって一本の橋もかかっていない堤防を走る道路である。だから、その中間にある沈下橋は地元の人にとってはなくてはならない橋なのである。
ふだんの水面から2メートルあるかないかの高さに架けてあるので、盆地にちょっと降ったかなと思える雨でもすぐに冠水するようである。雨後に通りかかると、流木などのごみが橋脚につっかかっているのをよく見る。
ペーパードライバーの家人に言わせれば、よくあんな細い橋を渡れるもんだと呆れているが、慣れた人にとってはどうということもないのだろう。
ハンドルには自信がある私でも、渡りたいとは思わないけれど。

触書

軽暖や空き巣被害の触書まはる

「軽暖」。

虚子によって夏の季語という扱いでは、薄暑、初夏の頃のやや暑さを覚える時候の言葉である。
対して、一般では「軽暖の候」というと桜の時期、やや暖かくなってきたころを言うようである。

いずれにしても、ちょっと気が緩みがちで、うっかり戸締まりを忘れたり、油断するとたちまち空き巣泥の被害に遭う。数日前にすぐ隣のブロックで一晩で三軒も破られたとの速報が届いた。
今日も窓を開けたまま、うとうとする時間があったが要注意である。