俯瞰

防人の踏みし峠の鷹柱
鷹渡る富士の裾野の一目に
そこに風あること教へ鷹渡る
目を皿に鸇の行方追ひにけり
数ふるを忘れてしまひ鷹渡る

日本野鳥の会によると金剛山の渡りがピークらしい。

東北や関東からはるばると降りてきたものの集まりだろうから、相当の群れにはなっているはずである。
10年ほど前に、知り合いに教えられて足柄峠まで渡りの様子を観察に行ったときの話は、このブログでも振れているが、そのときの様子がまざまざと思い出されてきた。
相当な高さを飛んだり、舞うので、慣れてない目にはなかなか捉えることは難しく、野鳥の会関係者と思われるグループの人にいろいろ指導いただいたこが昨日のようだ。
またいつか見に行きたいと思いつつ、なかなか実現していない。渡りを観察する場所といえば、鳥にとっても次の中継地点というか上昇気流の起こる場所が見渡せるような地点なので、渡りの季節でもなくとも眺めが楽しめるところであるにちがいない。
金剛の渡りのポイントを調べて、天気のいい日にビューポイントに立ってみるのもいいかもしれない。

霧霽れて

括られて一叢芒畑の隅

吟行は高取のかかし祭だった。

町おこしの一貫で、城下町の町家沿いに近代的な装いの案山子作品が並べられ、それを一つ一つ巡るのんびりした吟行だが、さすがに町家案山子を詠むというのは季題の本意には遠く、なかなか難しい吟行となった。
そこで、通りから外れた畑などに回って句材を探すことにした。
畑を囲むように秋桜が揺れ、菜畑の大根、キャベツ、白菜も順調に育っているようである。畑には、柿の実もたわわに見るからに生り年の風情を見せるかと思えば、ひときわ色を濃くした石榴も鈴なりである。
背後は、竹林だとばかり思っていたら、どうやら古墳の一角らしく鵙が巡ってくるし、鵯君も賑やかだ。
雨上がりの猫じゃらしがきらきら光り、草むらからは虫の声が盛んに聞こえてくる。
霧がかっていたのがはれて、三大山城の高取城の山がはっきりと見えてきた。
町からちょっと外れたところには秋がいっぱいあふれている。

靴裏を突き上げる

名園の木の実溜まりとなりにけり

櫟林を抜けて近道しようと思うと、ビシビシと音をたて団栗が落ちてくる。

櫟のあの丸くて大きな実は直径1.5センチほど。
さすがにあれが落ちると、苔の庭であってももんどりを打って大きな音がするものだと知る。
頭を直撃されてはたまらないから早々に抜け出したが、足裏にもはっきりと分かる木の実の大きさだ。

児雷也になりたい

走り根になりきつてをる穴惑

そばへ行くまで気づかなかった。

一本の根のようになって大きな木の下にとどまっておるのだ。
蛇は生来の苦手なので、打つどころか、一目散に迂回の道に逃げ込むしかなかった。

隙見せず

十分に肥えて蟷螂枯れそむる
枯れし眼の瞳もの追ひいぼむしり
蟷螂のアームかくかくロボットに

身の丈四寸。大きい。

身じろぎもせず警戒している。
隙あらば逃げだそうと機会を狙っているのか。
突き出したボールペンに対して、的確に焦点を当てているような顔の動きである。
どことなく、蟷螂というのはロボットの動きに似ていて、ジーコジーコと関節を中心に動いては静止するみたいで、無駄な動きは一つもないように思える。
これも、獲物を確実にしとめたり、危険からすばやく逃れる術なのかもしれない。

恵み

二タ夫婦鳥来てえごの実の豊か

せっせと運んでいる。

馬見丘陵公園のえごのき通りは今えごの実が揺れている。
なかには殻だけになっている実があるが、これはヤマガラ夫婦が味見でもしたものものらしい。
見ているすぐ目の前に、代わる代わるにやってきてはそれぞれの隠し場の方へ咥えてゆくのに忙しい。
えごの実は咥えるにはちょっと大きいらしく、折り取った軸部分を咥えるので、まるで嘴に鈴がぶら下がっているようにも見える。
写真にあるように、何本かあるエゴノキのうち、ある一本だけがおおかた裸になりそうで、どうやら熟しどきを見極めて運んでいるように見える。この木の実を採り尽くしたら、次の木に取りかかるのだろう。
今年もエゴノキは豊作らしい。

一寸先は

リベラルの流転憂き世のそぞろ寒

ひねくれた人生だった。

例えば、強者にはどうしても心を寄せることはできず、アンチの立場に立ってしまうのである。
就職の面接で「アンチ自民」だと述べたらその時点でアウトだったけど、節をまげてまで嘘を言うのはできなかった。
こんな類いの話をすればいくらでも「下手な生き方」を並べ立てられるが、今に至るまでとくに後悔することはない。
気に入らなければ近寄らなくて済むようになって、ますますこの強情さを楽しめるようになっている。
ところが、つねに傍観者で居続けることは難しいもので、どれかを選択しなければならないときがある。このとき、選択肢に自分の意に沿うようなものがなければどうしたらいいんだろう。