神さびる

神杉の渓に傾げて霧深し

屋久島杉など、およそ大杉というのは、どんな斜面でも普通直立しているものだ。

ところが、ここ丹生川上神社の千年杉は社前の丹生川に向かって傾いているのだ。
光の向きや、脊山からの風向きなどの影響かと思われるが、30メートル以上はあろうかという大杉が、まるでピサの斜塔のように真っ直ぐなまま傾いている光景はちょっと他に見ない。
奥吉野の水が豊富な場所であり、雨でも降ればさぞ幻想的なシーンに生まれ変わりそうだが、罔像女を祭神とするだけに、朝霧などであたりが白く烟るといっそう神さびた趣に包まれることだろう。

水の音

鳴る川を声渉りゆく秋の蝉
水生れてもの動きそむ秋の蝉
秋の蝉生まれし水の冷たさに

瀬の音に混じって蝉の声が聞こえてくる。

夏の蝉のような、煩わしいまでの姦しさとは異なり、どこか澄みきった清澄な音に聞こえてくる。ある意味、清流に濾過されたとでも言おうか、耳障りな周波数の部分が瀬音に吸収された結果居心地のいい音だけが耳に響いているかのようである。
夏の間聞かれていた河鹿はもう聞かれず、聞こえてくるのは瀬音と蝉の声だけである。
秋は水音に触発されて生まれてくるのだと思った。

帰省の思い出

朝顔の見馴れし色に母のがり

いつも同じ鉢に同じ色。

毎年種を採取しては蒔いているのだろうか。
帰省して最初の朝、目に飛び込むのが庭の朝顔だった。
お隣は夏休みで帰省の模様だが、保育園から持ち帰った朝顔がちょうど最盛期。垣ごしに見るのだが、暑さも尋常ではなくカラカラの天気なので、水をやらずでもいいかと気を揉んでいる。

社務所

秋簾裡にご朱印授けらる

千年杉もあって境内は涼しいのだが、戸を開いたままのご朱印所には簾がかかっていた。

平日の神社は、訪れる人もまばらなせいか、ご朱印所には「ご用のときは呼び鈴を」と札が張ってある。
簾の奥をのぞくと、回っていない扇風機、衝立があってなかなか奥行きありそうな広さがある。
大声で呼ばると、なかから浅黄袴の禰宜さんが出てくれたので、ご朱印をお願いした。

補)27日送信したはずが完了してなくて。こんなこと初めてです。最後まで確認しなくちゃね。

扇風機不要

稲妻のかれこれ五打や寝ねにつく

朝方の大雨で目が覚めた。

感じとしては、雨量50ミリ以上か。
かれこれ1時間あまり続いたようだが、終いには直近に雷が落ちたようで、凄まじい音と光が同時に頭の上を襲った。しばらくひそんでいると、雷はすぐに遠ざかったようで、再び寝についた。
その間カーテンを開けてあれこれしていると、雨や雷よりも落ち着かない夫にクレームをつけて家人はすましたもの。

前線が通ったもようで、今朝は非常に涼しく、扇風機が寒くすら感じるほどだ、

風向一変

病害の山赤茶けて秋暑し

なんだか9月末頃まで毎日こぼしそうである。

「暑い」。
今日も体感温度は36度。西日のハンドルを握っていると頭がぼーっとしてくる。
奈良盆地はなにもかも焼けるようで、とりわけ周りの山がすごいことになっている。
「楢枯れ」現象で、あの三輪山ですら点々と赤茶けて被害が広がっていることが分かる。
最もひどいのは、法隆寺裏を走る松尾山から矢田丘陵にかけての山で、遠目にもはっきりと分かる広さまでやられている。去年から一段と猛威をふるっているようだが、その勢いは止められないのだろうか。このまま進めば盆地の景色が変わってしまうのではないかと心配だ。

憎めない暑さ

目玉焼の口を濯げば虫の朝

幽かだけど聞こえてくる。

コオロギだと思うが、朝や夜のふとしたときに秋の気配がある。
たとえば、使う前には気にも留めなかったが、電動歯刷毛のモーターを切ったら、急に虫の鳴き声が聞こえてきたりする。
熱帯夜の寝汗が顔の脂とまじって電気剃刀を使うことさえすこぶる不快な気分にさせられるが、こうしたささいな音によってそうした煩わしさから一瞬の自由が得られ、束の間の涼しさに包まれる。

外は相変わらず35度を超えるが、空の青さにはどこか澄んだところもあって、どこか憎めない秋の暑さである。