合唱曲「千羽鶴」

虹色の鶴は希望を長崎忌

清々しい歌声と、その歌詞に耳を傾けた。

今日の平和記念式典で、乙女らによって歌われた被爆50周年を記念して作られた「千羽鶴」という合唱曲だ。
見たことがあるような制服だったが、これは娘の通った学校の姉妹校の生徒と知って合点がいった。
長崎市では、この日11時2分になると、防災無線放送でこの曲が流れるという。
かれこれ20年以上歌いつがれてきたことになるが、世界平和を願うこの歌の理想からは、きな臭い中東といい、極東といい、現状がますます遠くなっているような気さえする。

町の防災無線は今日もこの時刻乾いた鐘の音を流し黙祷を呼びかけていたが、夕には同じスピーカーから迷子になったご老体の捜索依頼が流れてきた。すぐに「無事保護された」とアナウンスがあって、無事解決したようだった。

長寿台風

飛び込みし虫を殺さず颱風来

何かの拍子に蜘蛛が入ってきたようである。

いつもなら外へ退散いただくべく捕まえるのだが、こちらも颱風を避けて窓という窓を全部閉じているので、そのままにしておいた。朝起きてみると、どこにも見あたらないので、一夜限りの避難所であったようだ。
この5号というのは、今夕のニュースではまだ新潟沖で、温低にもならず台風のままとはしぶといやつだ。

立秋湿度80%

秋立つや防災アプリ入れてみる
託児所に雲行き怪し今朝の秋

昼過ぎに保育園の子を連れてお母さんが帰ってきた。

共稼ぎのお母さんはどうやら早退らしい。
いつもなら元気な子供たちの声が聞こえるところ、雨戸を閉めているせいか、全く聞こえてこない。

わが家でも、あらかじめトマトなどのプランター類は風避けの対策をしているので倒れはしないようだが、このたびの台風五号の目がは珍しく盆地を縦断しているようで雨風ともに強いが、山に守られているせいか怖さは全くない。
ただ、もともと湿地帯であった盆地中央は、大和川支流が複数集まってくるので洪水が心配されるが、台風の目が奈良市へ抜けたあたりで氾濫のニュースはないので、今回は無事にやり過ごせるのではないだろうか。
このあと間もなくskyblueさんの東海地方に近づいてゆく。

乾いた音

八月六日鐘鳴らす町ならぬ町
風炎の山吹き降ろし原爆忌

朝の一仕事が終わって一息ついていると放送があった。

行政の無線放送だ。テレビの中継に2秒ほど遅れるタイムラグがあるところは愛嬌だが、町民に黙祷を呼びかけている。
町によってはチャイムであったりするようだが、当町はどうやら広島の鐘の録音じゃないかと思えるような乾いた音に聞こえた。
それぞれの自治体ごとにこの日を悼むやり方があっていい。
個人もまた、それぞれのやり方で向かい合うがよいと思う。

万能包丁

桃割りし鈍き刃の蜜光る
鈍き刃を突き立て桃の離れけり

何年も使っている万能包丁がくたびれている。

野菜でも肉でも何でもござれと家人は気にせず使っているが、ときどき研ぐにせよ最初の切れ味はとうに失われている。よくも器用に使うものだと感心するくらいだが、一向に気にしない質のようである。
今日もまた、信州から届いた立派な桃の冷えたのを、刃先を器用に種に沿いながら割っていたが、肉の断面はと言うといくぶん崩れているように見えて、なんだか折角の桃がかわいそうに思えた。

グラウンドにて

膝折りてダッシュの汗の落ちにけり
汗落ちて土は煙を吐きにけり

朝練とはいえ、旱がつづくグラウンドは乾ききっている。

甲子園のようによく整備されたグラウンドにはほど遠い校庭などでは、関東ロ−ム層に典型的なように土の性質によっては細かい粒子のようになって、少しの風にも土煙が舞い立つし、雨が降れば水はけが悪くいつまでもぬかるみが消えないという、選手泣かせのところもある。
先ほどからダッシュ何本もやって、膝に手をやり息を整えているが、さかんに吹き出している汗が滴り落ち、それがミルクの王冠のような跡になって土煙をあげる。

夏も終わりに近い。
甲子園が始まるといよいよ秋が顔を出してくる。

一丁目寂し

本邦の南晴れたる帰燕かな
もう一回軒の巣かすめ帰燕かな
電線に見馴れぬ数の帰燕かな
若鳥の親より太き帰燕かな
この町で分隊組める帰燕かな
燕去つて寂しくなりし一丁目

「電線に鳥がとまってるよ」

そういう声に起こされて、南西の空を見たら雲ひとつない秋のような青空だ。
まるで次の句を思い起こされる朝だ。

一天の翳りなきとき帰燕かな 桂信子

最初の句はこれに類すると言われそうだが、あえて。

さて、その電線の鳥だが、これは幾分大きめで寝ぼけ眼には何の鳥だか判別がつかない。
そこで、外へ出ると、お向かいの燕の夫婦が巣作り、子育てのときにさんざんつかまっていた電線に、20羽ほどの燕が止まってはまた周りを旋回している。そして、これがいうところの帰燕らしいと悟った。初めて見る光景だ。
起きがけに大きく見えた鳥は若鳥らしいと悟った。
お向かいの巣の子作りは一回だけだったので一家族で6,7羽程度。ということは、この辺りに営巣して子育てを終えた四家族くらいが一分隊として今日発つと決めたらしい。
朝食を終わって外に出てみたら、電線にはもう燕の姿はなかった。ひとまず淀川にでも塒求めて向かったのかな。