陰影

春障子学芸員の声洩れて

障子の中では古代雛の展示が行われている。

法華寺では、歴代門跡の雛人形が公開中だ。
普段非公開の座敷は広く、明かりは乏しく障子からのものに依存しているので、それほど明るくはない。柔らかい光が人形の表情に陰影を与えて、雅な印象を深める。
何か聞きたいことがあれば、縁側に正座した学芸員とおぼしき人に聞けばいい。
ここでも、雛の調度が特徴的で、ほかには幼い庵主のために用意されたとおぼしき人形や遊び道具なども展示されていて、普段うかがえない尼寺の暮らしをかいまみることができる。

溜息をついたのち、外に出れば庭園は椿が咲き誇り、囀りが絶えない。
敷地が広いこともあって外からの雑音も届かず、見学の余韻に浸りながらの散策にはちょうどいい。

フットプリント

斑雪野の獣の跡の痩せにけり

大峯の襞がかすかに見える。

西から夕方が当たるときだけしか見えない光景だが、それでもいつもの年に比べてクリアではないのが残念だ。明日は花粉に加えて黄砂まで飛ぶと言うから、もう今年は期待できないかもしれない。
空が澄んで吉野・大峯の山襞がくっきり見えるときの感動というのは,言葉にはできないくらい神々しく輝いて見えるのだが。

修行の山はまだ雪に覆われているが、麓では斑雪野が見られることだろう。
そんな様子を思い浮かべて作句してみた。

馬鹿陽気です

春色の故郷フェアに訛聞く
春色の恵みとりどり故郷展

南天さんから、「夏井いつき句会ライブ」の報告をいただきました。

3月3日だったといいますから、当日の席題は雛祭りに因んだものだったのではないでしょうか。
会場が三重県のアンテナショップなので、もしかしたら会場では故郷の訛が聞こえたのかもしれません。

その場に居合わせなかったので適当に詠んでますが、出席した方からはもっと迫真の句が生まれることでしょうね。

春にアクセル

啓蟄や居所悪き虫ひそむ
啓蟄ぞ出や獅子身中の虫
啓蟄や飛んでけ苦虫腹の虫

これだけ暖かければ虫も飛んで当然だろう。

花はもういっぱい咲いているし、餌にも困らない。
その這い出た虫を狙って鳥も飛ぶ。
腹が満たされれば,次は恋だ。
子供たちが生まれてくる頃は春真っ盛り。

春がいよいよ加速されてゆく。

今日はどこ歩く

踏青の終点しかと決めで行く

天気に誘われて行けるところまで行く。

平城京跡を歩いていると、余りにも広いうえ、朱雀門、大極殿などポイントポイントが離れていることもあって、出口をどこにしようか迷うことがある。
冬ならば、北の池で渡ってきた鴨を見もよし。春ならば、佐保川にでて桜堤を歩くのもよし。夏ならば。。。。影のない夏は避けた方がよさそうだ。秋は、う〜ん、秋篠寺の技芸天さんでもお詣りしましょうか。

雛巡り、もう一つの楽しみ

筆すずり文箱にすます雛道具

今日は雛まつり。

この日を中心に、家や寺に伝わる雛を持ち寄ったり、各家に飾って観光客に楽しんでもらおうという催しが各地で盛んだ。
滋賀県では東近江市「商家に伝わるひな人形めぐり」、奈良県では奈良市法華寺「古代ひな人形展」、高取町の「町家の雛めぐり」など、ニュースにもよく取り上げられる。
いずれも古代雛が多く飾られているが、よくできた雛飾りには必ずと言っていいほど目を引く立派な雛道具も添えられている。
道具は、雛の大きさに合わせて原寸よりは随分小さいが、どれも良くできた細工にはほとほと感心するものがある。
聞いた話では、大店や大名家などでは豪華な雛飾りとは別に、「ご内証の雛」と言って個人で楽しむような小さなものを別に作らせたそうである。ここでは、道具も一段と小さく設えられ、禁制もかまわずに競うように贅をこらした微細な細工がほどこされたという。
古代雛のねびた表情を楽しむのもいいが、このような道具に注目して巡るのもいいかもしれない。

地上の星

禁足のロープの内の犬ふぐり

平城京跡は一面草が青み始めていた。

関連する季語で言えば、「下萌ゆ」「草青む」「踏青」「仏の座」「蓬」、そして掲句の「犬ふぐり」もある。
工事中、保護エリアなど立入が許されない場所も多いが、あの広い平城宮跡である。すべてには目や手入れが行き届かないのは当然であろう。
禁足のロープに沿って、犬ふぐりが点々と青い星をこぼしている場所も数知れずあった。足下には、地上の星、地上の小宇宙が広がっている。