遠鳴けば近けたたまし雨蛙
紫陽花苑に入ると雨粒が落ち始めてきた。
順路は青竹の垣にそって行くわけだが、鎌倉・明月院の階段よりずっと狭くて腰や袖の辺りが衣服を濡らす。順路を設けた理由はどうやらそんなことにあるらしいとは吟行が終わってから気づいたことだ。
この順路は山の中腹を巡るように設えてあるが、ちょうどいい具合の谷筋に入ると、石の階段は滑りやすく足下ばかり見る紫陽花狩りとなった。
それでも、下から上ってくる順路に目を落とすと、とりどりの色の傘が紫陽花に見え隠れしながら上ってくるのが見える。こういう場合、地味な傘というのは絵にならなくて、やはり思い切り派手なものを選んで持ってくるほうが似合うと思う。しばらくそういう構図を待ったが、なかなかチャンスは訪れず吟行の途中でもありあきらめることにした。
また、この谷には大きな山法師の木があって、おりしもの満開は辺りを灯すようにも思えた。
順路巡りも一段落し、さてどうしたもんじゃろうの〜う、なんて句作の構想に耽っていると、谷筋の向こう側から蛙の声が聞こえてくる。聞こえたかと思ったら、すぐ目の前の辺りで大きな声で応えるものがいて。そうすると、まるで示し合わせたかのように、あちらこちらから代わり番こに輪唱が始まって、一同目を合わせて、「やるか?」という顔である。
ここで「やるか」というのは、これを句にするということであり、さても午後の披講が楽しみとなった。