呻吟

数百里離れた人と月を見る

珍しくよく晴れたこの日。

全国ではどうだろうか。
秋とは言え、ややうすいもやがかっているようで、澄みに澄んだというものではなかろうが、それでも昨夜見た月から想像するに今日はさらに大きくて明るいものとなるであろう。
十五夜というのは夜八時頃から白く輝きだすので、あとしばらくすれば全国多くの人と一緒に見上げることになるにちがいない。とくに、俳句をやる人にとっては特別な夜なので多くの俳人が感動を言い止めるべく呻吟することになるだろう。
静かに月を見られないのが俳人である。

息抜き

秋暑しセルフ給油の泡だちて

今年何度この季語を使ったろうか。

寒の戻りという言葉はあるが、「暑の戻り」はない。残暑、秋暑くらいしか思いつかない。
もうすぐ10月というのに猛暑日を記録する列島。ほんの数日涼しい日があったと思うが、これだけ暑い日が続くと体力がどんどん奪われてゆくようで老体にはきついものがある。
明日は十五夜らしい。せめて夜くらいは息抜きをしたいものである。

一直線

秋耕のリズムにやどる律儀かな

毎日少しずつ進む。

計算された通りに秋の日程をこなしておられる。
出来上がった畝は誰が見ても唸るほど見事である。まるで耕耘機で耕したように丁寧に、畝の整形も機械でやったのではないかと思えるほどの直線の美しさ。
畝を立てるにも性格というものがよく顕れるものである。
八十路の背も真っ直ぐに、人生の来し方も迷うことなく一つの道を貫いてこられたのだろうか。

恨み言

大和川遡るがごとく鰯雲

秋らしい空となった。

午後から晴れてきて気温は30度をこえてきたが、空気は秋のもの。
上を仰ぐまもなく見事な鰯雲が西の方から広がっている。盆地のほとんどを覆い尽くすような美しい雲である。
暑さを忘れてみとれること数分。
こんなに爽やかな空気に包まれるのはほんとうに久しぶりで、暑さへの恨み言もすっかり影を潜めた一日となった。

触感、食感

ぬめりある柿の甘さを諾へり

どちらかといえば堅い方が好き。

柔らかいのはまず甘いが、ずるずる滑るような触感、食感が苦手である。ことに皮を剥くときつるりと今にも滑り落としそうになったりして、その弾みでナイフで傷つくような気がしてならない。
すでに柿は出回っているがシーズンの初めでも堅いとはかぎらないようである。

自然循環

口伝てに広がる恐怖穴惑

何気なく触れたビニールマルチにとぐろを巻いていたと。

たしかに私の区画でも今年だけでも二回も蝮の赤ん坊を目撃している。
この情報は昨日から今日にかけて全員に伝わったようで、お互い気をつけようということになった。
急に涼しくなったので暖かいところでおとなしくしていたと思われる。これから気温が下がってくると蝮の行動も緩慢になるだろうことは十分理解できる。
災害は忘れた頃にやって来るという。まむし禍もうっかりしているときに起きるかもしれず、みんなで情報共有することは大事である。田圃に囲まれた菜園は蛙も多く、蛇にとっては餌に困らない天国であろう。イタチもモグラも生息し自然循環が豊富なエリアである。それだけに思いもかけない危険が潜んでいることに留意したいものである。

長旅

長雨の涯を低きに秋燕

10羽以上いたろうか。

雨のやんだ田の上をしきりに群れ飛ぶ。蚊などの小さい虫がたくさん飛んでいるのかもしれない。
小集団にまとまっているのはそろそろ帰る準備か、はたまた旅の途中のものか。いずれにしても長旅に備えて体力増強に努めているに違いない。
おそらくもう明日は姿は見られないだろう。
来年春にまた会えるだろうか。