二リットル

緑陰や風と帽子と木のベンチ

熱中症を避けるために物陰に入って水を摂れという。

だがしかし、畑や田圃には陰をつくるものなどほとんどない。
小屋、納屋でもあればいいのだが、仕方がないのでインゲンの棚に陰をもらってひと休み。
ただ、腰掛けがないとなかなか休んだ気にはなれないもので、長くもいられない。
果物でも植えれば緑の陰もできるのだが借地ではそうもいかないし、結論としてはできるだけ早く用件をすませて帰るにしくはないのである。ペットボトル2リットル分など医者に言われなくても、毎日飲める日が続く。

悲しく碧い

塵芥出したきりに冷房入り浸る

ひたすらこもる。

冷房のきいた部屋からは一歩も動かないと決めて一日。ほんとうにそうなった。
数字からすれば35度には達していないから猛暑日ではないのだけれど、もう体が危険だと教えてくれるような日中の暑さはどうだ。
実際は朝ゴミを出してから、頼まれてバイクにガソリンを入れてきたのだけれど。
夕方の空が悲しいくらい全面碧い。

魂胆

効能にほれてどくだみ煮出しけり

たしかに匂いはきつい。

草が大好きな猫でさえ顔をそむけて逃げていった。
鍋に移って叱られるのもいやなので、家人の帰りを待って軽く煎じる。煎じるというより、匂いを飛ばさぬように沸騰寸前に四五分煮るだけである。
何でも虫の嫌いな匂いだそうで、当たり年のカメムシにお引き取りいただこうという魂胆である。

鉄則

ヨーグルト匙でつぶして朝曇

朝のうち辛うじて体を動かせたのはどんよりとした曇り空のせいだったのだろう。

しかし、昼頃になってかっと照り始めたらもういけない。
熱中症予防のために冷房を入れねばならなかった。
もともと高湿度であったのにくわえて急激な気温の変化の度合いと言ったら身の危険を感じさせるには十分で、これでもう午後は外へ出る気はまったく失せてしまった。
危うきに近寄らず。夏の鉄則である。

ワン・ピース

すいすいとみんなどこかへ水馬

ある者は後期高齢者を待たず。

またある者はなった途端に。
長い人生において交差した人が亡くなる。
学校で、あるいは会社で、あるいは私的な交流の集まりなど、ひとときともに濃密な時間を過ごした人々である。友とも、よく知っている知人とも言える彼らはおそらく不本意な形で死を迎える。
ピースの一コマ一コマが欠けてゆくスピードがだんだん増してきた。自分もそのようにいい歳なのだ。

懸命

青鷺の子持烏に追はれけり

青鷺にしてみればいい迷惑だろう。

たまたま通りがかった森から烏が飛びだしてきて、身を賭して追いたてに駆られる。びっくりした青鷺は聞いたこともないようなけたたましい声を上げて一目散に高く舞い上がる。
自然界にはこうした子供を守ろうとする親の戦いがあちこちで繰り広げられているのであろう。
人間さまにはあれこれいたずら止まない烏だが、こうしてみてみると彼らも生きて子孫をつなぐのに懸命なのである。

侵入

荒南風の奥駆の道ひとつとび

カーテンをまくり上げて湿度80%の風が吹く。

どんよりとした大気が午後になって晴れてきても体にまといつくような湿度には閉口させられる。
これを黒南風というのだろう。風が強いので荒南風とも言える。
気温が30度を割っているので冷房を入れるほどではないが、それでも不快指数はマックス。
太平洋の湿った風が奥駆道の百キロ以上をわたって盆地に侵入してくる。