早苗田

束の間の平穏なりし夏の蝶

田植えが終わった田に静寂が戻った。

蝶がきたかと思うと、シオカラトンボものんびり飛んでくる。
暑い暑い夏に向けてやることといえば雑草取りくらいで、暫くはこの里で人の姿を見ることは少ないだろう。

(写真)田の奥にある白いビニールハウスで苺「飛鳥ルビー改古都香(ことか)」が生産される。前に書いたが、これは大きくて抜群に甘い。奥中央が斑鳩神社。そのすぐ右横がカイツブリの池だ。

尚武に通ず

鳥の名を冠するもあり花菖蒲

江戸時代に品種改良がさかんだった花菖蒲。

菖蒲は尚武につながるということで特に武士階級に人気であったようである。
そのおかげで今では各地の菖蒲園でさまざまな品種のものを見ることができる。
写真の手前左が「郭公鳥」、真ん中が「磯千鳥」と言うのだそうである。

当地の菖蒲園といえば柳生花しょうぶ園らしいのだが、ここでは約80万本460品種が見られるという。残念ながら今年はチャンスがなかったので来年こそはと思っている。

悠然と舞う

青鷺のけだるく田の辺に降りにけり

大和盆地のカイツブリはすでに書いたが、青鷺もまたよく見ることが多い。

へたすると大鷺よりも数は多いのかもしれない。
あの洒落た藍灰色をした翼を広げた舞い姿というのは実に粋でダンディでいつ見てもほれぼれする。

マイファームの数段上の田がお気に入りらしく、必ず数羽(多分ファミリー)できては優雅に舞い降りるのだが、たまには降りずにそのまま悠然と滑空している時もある。そんなときはいかにもけだるげに見えるのだが、もしかすると若鳥の調教中かもしれない。

放浪者

先住に気兼ねすまじくほとゝぎす

鶯の声がにぎやかに聞こえるマイファーム。

きょうは珍しく時鳥が鳴いている。
ただ、先住者の鶯たちに遠慮してかやや声が細い。20分ほど鳴いてそれきり聞こえなくなった。今年の居場所を探しているのだろうか。
夏に日本にやってくると言うが彼らの冬の居場所はどこなんだろうね。

大玉西瓜が受粉に成功して実をつけ始めた。
直径1センチにも満たない赤子だが、しっかりとあの縦縞、ストライプ模様が誇らしげ。

自分を重ねる

息子たち巣立ちひとりの田植かな

大雨が去った今日は徐々に天気も回復してきた。

周りの田は大方田植えも済んでいるというのに、誰も手伝う人がいないのだろうか、老人ひとりが泥田のなかで重い田植機と格闘していた。
息子や娘たちが都会に出て、田を守るのは今はもう老夫婦だけの毎日なんだろう。

この姿は自分にも重なって見え、今も妙に残像がちらつく。

雨の国道

ガソリンを満タンの朝夏至る

台風の影響で大雨が心配だったが、母親の退院を見届けに帰郷した。

名阪国道は天理と亀山を結ぶ自動車専用道路であるが高速道でも優良道でもない。
大半を伊賀盆地を東西に横切る道でほとんどを山地に囲まれて走ることになる。
この時期は緑が大変美しいシーズンで走っていても気持ちいいものがあるが、雨ともなるとさすがにアップダウンの多い道では気を遣うもので句のことなどを考える余裕はない。

来週初めには今後の治療について担当医と話し合う必要があり、これからも帰郷の頻度は高くなりそうだ。

無防備な

水藻編むだけのはかなき浮巣かな

斑鳩の里には大小の溜め池が多く、子育てのためだろうか巣作りで大わらわのカイツブリの夫婦が見られる。

ただ、見ていていかにも不安定なのは、水面に漂う藻をしきりに編んでは巣を作ろうとしているのだが、巣の上や左右をおおうものとてなく360度丸裸同然なのである。これでは、カラスなんぞに襲われたらひとたまりもなさそうなのである。
それに浮き巣自体が藻だけではとても卵をあたためる床などできようもなく、この夫婦はどうやら経験が浅い夫婦ではなかろうかと思うのである。

鳰の浮き巣と言って、彼らの巣は大水が出たりするとすぐに壊されたり流されたりするのでもろい、はかないものの象徴、たとえに用いられるが、なるほど当たっていると思う。
ただ、流されても壊されても懲りずに何度でも作り直す習性があるようで、先週は隣の池で枝のような浮遊物にすがって巣作りしていたカップルがいたが今はもういないところを見ると、あれは今日見たカップルなのではないかと思われる。

しばらくは観察を続けようと思う。