挽歌

通学路拓く予定地犬ふぐり

小さい花が冷たい風に震えて咲いている。

団地住民念願の通学路の工事が始まった。現在指定されている通学路は遠回りのうえ、昔からの農家をぬける道なので狭くて見通しがきかず、父兄にとっては大変心配なことだったろう。
それが、このほどようやく行政の予算がついたようで、来年春の開通を目指してブルドーザーなどが田や畑などを次々と均している。犬ふぐりが群れ咲きしている校舎のそばの空き地も長い間ロープが張られて人の立ち入りが禁止されてきたが、ここも工事予定区間に入っているようでやがて重機が跡形もなく整地してゆくのだろう。

人の踏まぬようなスペースを見つけては自分たちの生きる場としてきたものたちも、やがて蹂躙され姿を消す。人間の近くに生きながら、その人間の都合によって左右されるものたちへささやかな挽歌を捧げたい。

結氷

薄氷の漂ひそめし岸辺かな

今朝は久しぶりに氷が張った。

氷と言ってもいわゆる春の薄氷(うすらい)で、日が昇ればすぐに解け始めるので、指ではじいただけですぐに漂い始める。
今週の半ばにはまた雪かもしれないという予報が出ているが、今年はもう氷が再び厚く張ることがないように祈りたい。

ところで、今回の大雪では以前に住んでいた東京西郊の町で車庫の屋根がつぶれた家が続出したという話だ。にわかには信じがたい話に驚くばかり。今週は無事にやり過ごしてもらいたいものだ。

一進一退

幹だけの街路樹なれど下萌ゆる

雪はすっかり消えた。

暖かい日に誘われて、當麻の動物霊園まで出かけた。2年前雪のちらつく寒い日に亡くなった子の三回忌の念仏を唱えてもらうためだ。竹内街道からちょっと外れた小高いところにあるので、所々にまだ雪が残ってはいるがどんどん解けている、そんな陽気の日で車の中は暑いくらい。
行ってみると思ったより高度があるらしく、畝傍が低く見えた。だが、雪の解けた蒸気がどんどん上がっているようで、最近は高見、大峯の雪の姿がよく見えていたのが今日は見渡せない。

今週の半ばにはまた天気が崩れるというが、こんな一進一退を繰り返しやがて本格的な春はやって来るのだろう。

雪から雨へ

春雪やだるま一夜の末路かな

雪が雨に変わったらしい。

昨日の大雪であちこちに雪だるまができていたが、今日はそれが解け始めていて、なかには原型をとどめぬほどやせてしまったり、背が低くなったり、あっけない末路をさらしていた。

大雪

春の雪今年二度目は嵩を増し
春の雪にはか遊び場そこかしこ
ご近所にスコップ貸すも春の雪
大股に急ぐ人ゐて春の雪
ご近所をそろと一周春の雪

奈良は15センチの積雪。

前回は夜のうちに霙、雨に変わっていたのでほとんど生活には影響がなかったのに比べ、今日のはすごい。ノーマルのタイヤのまま無理をして出勤していった車も随分あったようで、ここは上り坂でもあるし帰りはおそらく車を置いてくるほかはないだろう。
明け方から降り始め、2時間ほどで5センチは降ったろうか。その後も降り続け、通学時間帯には坂になってるうちの前で子供が尻もちをついたりしている。それでも、子供たちにとっては雪は友達のようで、嬉々として雪を丸めては攻撃のチャンスをうかがったりしている。

午後3時現在、小降りには変わったがまだ雪にはかわりない。そろそろ雪かきでもして子供たちの帰り道を少しでも歩きやすくしてやろうか。

砂かけ祭 その2

砂舞へば舞ふほど宜し春祭
砂を手に今か今かと事祭
女子記者に砂の洗礼事祭
春ごとや噛むほどに砂浴びせられ
春ごとのどこもみな砂かぶり席
境内をところせましに事祭
春ごとに備ふる砂の堆し
子供らも負けず砂かけ事祭
砂かけの奇祭も春の予祝かな
田人みなファイアマンなり御田植祭
松苗を苗に見立てて御田祭
巫女二人植ゑつつ謡ひ御田植祭
御供を撒いて終了御田植祭

現地に立てば句材がありすぎて幾つでも作れてしまう。やはり人事の句が一番作りやすいかな。

春の予祝行事

荒技にカメラたじろぐ事祭
春ごとのカメラたじろぐ砂つぶて

今日は河合町廣瀬大社の「砂かけ祭り」の日だ。
廣瀬大社の砂かけ祭
ホームページにあるように、この行事は農耕作業が順調に進み稲が無事に育つように五穀豊穣を祈願するお祭りである。あらかじめ祝福することでそのことの実現を祈る、いわゆる「予祝」の「お田植え祭」、「春祭り」として、「春ごと」「事祭」に類する祭である。

砂をかけ合うのは雨の少ない大和盆地にあって、よく雨に恵まれますようにという意味があり、砂が飛び交えば飛び交うほど縁起がいいとされるので、その激しさは半端なものじゃない。たとえ見物の傍観者であっても容赦なく砂を浴びせられるので、この日は雨合羽などで頭から完全防備のかっこうで臨まないと大変なことになる。
まして高価なカメラなど下手すると壊されかねない荒っぽさなので、レンズの部分だけ目出ししてあとはビニールなどで覆うなどの対策が必要。

掲句の「事祭」や「春ごと」は関東などではあまり聞かれない季語なのかもしれない。当地では既に1月の頃から各地の神社でそれぞれの「御田植祭」(おんだまつり)が行われるが、この廣瀬大社の御田植祭は別名「砂かけ祭り」の方が有名で「大和の奇祭」のひとつとしても広く知られている。

追)神社ではなくて「大社」でした。さすが勅願の社だけありますね。