白菜

茎立の成長点を和えにけり

茎立、薹立ちのことをいう。

今年はいつになく暖かい日が続いたせいか、野菜たちの薹立ちがすでに始まっていた。
アブラナ科が薹立ちするといわゆる菜の花になるのだが、そのなかでも最もうまいとされるのが白菜だそうである。
その白菜だが、苗作りに失敗して蒔き直ししたのだが、やはり一ヶ月の遅れは大きてく結球しそうもないので菜の花をいただくべくその日を心待ちにしていたのだ。
ひさしぶりに畑に出るとその菜の花が顔をのぞかせていて、ためしにひとついただいてきた。
今夜の卓には間に合わなかったが、明日はどういう料理になるのか楽しみである。

猫語

加湿器の水よく吸うて冴返る

しばらく暖かい陽気に体がなじんでいたのでその反動であろうか。

真冬ほど寒くない気温のはずなのに、やたら冷え込みを感じる。
猫どもも同様のようで、午後四時頃からにゃあにゃあと煩く寄ってくる。暖房をつけろという催促である。

スウィッチオンしてしばらくしたら、みんなおとなしく床に寝そべっている。
この時ばかりは奴らのいう言葉がよく分かる。

0.5cc

たわいなき話に血抜く院のどか

注射の上手なナースに当たった。

刺す瞬間も液体を注入するときも痛みというのはほとんど感じないのである。
おまけにこの人に打ってもらった注射痕に血がにじむということはかつて一度もないし、その痕跡すらよく分からないほど腕前が鮮やかなのである。
新米に当たるとどうか注射が上手であってくれと祈るような気持ちで体も固くなるし、だからなのか余計に針を刺す瞬間も注射液を入れる間も痛いのである。そういうときは決まって注射痕中心に血がにじんでだりする。
血圧さらさらの薬を常用しているので、一般の人よりは出血しやすいのである。
たわいもない話しをしながら打つのだが、この日はやけに混む理由が分かった。コロナが増えてきて発熱外来が忙しくなってきて先生が大忙しなんだと耳打ちしてくれた。
そんな話しが終わるか終わらないうち、それこそあっという間に0.5ccの増血剤が静脈の中に吸い込まれていった。

肉親

チョコレートもらふことなく卒業す

好きな子はいた。

が、卒業までとうとうバレンタインデーのチョコレートをもらうことはなかった。
だいいち、この日にチョコレートを渡して恋心を白状するなどという慣習もなにもない時代のことだ。
さらに、卒業当時は一月を過ぎたら受験やその準備などで学校には足も向かない状況。
おまけに、受験失敗したので予備校選抜試験などがあって卒業式どころではなかったし。
もしかしたら、渡そうと思う人がいてくれたのにその機会がなかったのかもしれない。
その後サラリーマンとしてこの日を何度も迎え、そのつど義理チョコなるものをもらったが嬉しいと思ったことはなかった。
唯一の貢献元である肉親からも、チョコはあまり好きでない主には最近届かなくなった。

手つなぎ

園バスの園児吐き出し春めける

季節違いの暖かさ。

へたすると二月ほど先に進んだかと思える陽気である。
家の前は園バスの停留所。
暖かい日射しに包まれた園バスから園児が元気に降りてきた。送迎の教諭も満面の笑みを浮かべて親御さんに挨拶してゆく。
親子で手つなぎ家へ向かう姿を見送りながら、ほのぼのとした暖かさを感じる午後であった。

部数減

春なれや落丁落字誤変換

ある会の同人誌みたいな会報。

気の毒なことに校正を一人でやっているので、ときどきミスが発生することは止むを得ない。
一番若くて優秀なひとりが校正を買って出てくれてるので、だれからもクレームは出ない。
私も、原稿ごとまるでなかったようにいくら探しても自分の文がそっくりぬけていることもあった。
筆の仕事仲間のOB会とでも言おうか、達人も多いので掲句のように誤字とか誤変換はまずないが、巻頭が前年のものだったりして思わぬことも起きる。
会員の高齢化がすすみ、すでに鬼籍に入られた先輩も多い。寄稿者もひと頃の半分程度になりここ数年は一気に減ってしまうありさまだ。
ひとりあたりの印刷、製本のコストもそろそろ限界に近づいて言えるが、せめて数年はこのままもってもらいたいものでらう。

構図

春寒や出足のにぶき投票所

町長選の一票。

小さな町や村の多い当県では首長選はたいがいが無投票である。

ただ、現職が退いて新人同士となるとそうはいかない。
その町や村の既存勢力の争いの様相を呈してきて、拮抗すると実に興味深い。
ただ、今回はそういう様子はみられず既成勢力対革新の構図。
前町長が不祥事によって辞職したこともあって、既成勢力の一方的な勝利にさせないためにも負けを承知の革新勢候補に一票を投じてきた。
当町のような小さな田舎町にはご多分にもれず古い住民によるしがらみのようなものが澱んでおり、全国で絶賛注目中の安芸高田市の気鋭市長と議会とのバトルでよく分かるように、過去の因習から簡単にぬけきれないでいる構図が肌でも感じることができる。
カルト宗教の選挙応援をもらってはご機嫌取りの政策をすすめ、またいっぽうでは税金から多額の政党交付金をもらいながら、100人を超える議員がまともな帳簿すらつけず多額のカネが使途不明になっている言わば犯罪人集団である政権与党をのさばらせているのも、地方の実態と構図がだぶって見えてくる。