女子大の緑陰で

校舎から校舎へ渡る日傘かな

今年最高気温の奈良を吟行。

お目当てが伝統ある奈良女子大だったので、木立が深く、緑の影も多くて助かった。
キャンパスに着いた頃は学生が見えず、もう夏休みかと思っていたら、授業が終わった校舎からどっとあふれるように学生が出てきた。学食へ向かうもの、次の教室に移るもの様々だが、半分くらいが跣足にサンダル履き、少しの移動距離でも日傘をかざすあたりはさすがに女子大かと思わせる。

重文になっている旧本館を案内いただくも、参加者が多くてクーラーにも限界。汗が引くどころか、ますます吹き出してくるには閉口した。
この大学のシンボルツリーとも言えるメタセコイアの大緑陰にしばらく身を置いたら、ようやく体の火照りも治まってきた。

早々に退散

草抜きの鎌も持たされ溝浚へ

夏の間は一時間早まってスタートだ。

第二日曜日朝八時。毎月恒例の団地クリーンデー。
約30分ほど道路や側溝、空き地などのゴミを拾いながら指定の公園に集める。
舗道などに雑草も伸びる時期なので、ポリ袋、ゴミ拾いトングの外に鎌や草削りなども渡されてめいめい団地の各地に散ってゆく。
集積所では冷たいジュースやお茶などが待っており、それを目当てというわけではなかろうが若い世帯の子供連れも多く、家族のレクレーション的な遊びのノリで参加しているようだ。

一家族一人参加が最低条件なので、この仕事は亭主の私の役目。日差しも強烈に強くとても長時間はもたない身としてはさっさと済ませてさっさと帰るようにしている。

体力をつけて

初蝉のおもむろに数増しゆけり
初蝉のさはにとはならぬなり
初蝉の一声ありて止みにけり

今日も朝から蒸し暑い。

朝のルーティンが終わる頃、待望の風が吹き始めたので窓を全開して汗を引かせていると、鎮守の森の方からかすかな蝉の声が聞こえてくる。家人を呼んで聞かせようとしたが、すぐに止んでしまう。
家人があきらめて戻ろうとしたら「聞こえる」と言う。確かに、今度は少なくとも二匹が鳴いているようだ。声の低いのと高いのと。
低いのはクマゼミかもしれない。高いのはニイニイゼミか。
やがて、二匹以上が鳴くような合唱に変わっていったが、それは長くは続かなかった。
全身全霊をこめて鳴くにはまだ体力が追いついてないのかも知れない。

ついてゆく

白南風の三角点の嶺を吹く

今日は室内の涼しいところでも32度ある。

強い南風が吹いて、まるで梅雨が明けたように明るい雲が高いところを飛んでいる。
朝方70%程度合った湿度も、昼頃からは50%台に下がっていくらかしのぎやすくなったが、それでも身の置き所もないように暑い。風は生熱いが、あるだけましで、エアコンはまだまだ我慢だ。

大峯の稜線が見えるのも久しぶりで、吉野から連なる山塊が黒々としている。
太平洋から吹き上げた風が熊野の山々を渡ってきたのだろうと想像すると、無性に熊野の海が恋しくなった。

これを書いていて、どこからともなく聞こえてくる虫の音に気がつく。
これではまるで梅雨から明けて一気に晩夏に達したようで、体も感覚もとてもついてゆくことはできない。

国のあとさき

多党化の選挙公報梅雨湿り

朝刊とならんで選挙公報が放り込まれていた。

最近は朝夕刊とも、天気が心配されるときはビニールで包まれて配達されるから、雨などで濡れるというようなことはめっきり少なくなった。
その点、選挙公報はそんな気配りもないようで、前夜あるいは早朝に投げ込まれた束はしわくちゃになってしまっていた。

あらためて開いてみると、聞いたことのない名の政党もあって、いよいよ混迷深まる国の行方である。

ばらけそう

大鯉のくぐりし浮巣ほどけさう
ばらけると見えて浮巣の安普請

こんなところにと思うような場所に浮巣を見つけた。

ちょっとしたさざ波にも小刻みに揺れているが、鯉が突き上げるように通り抜けると大きく上下に振れた。
巣作りの途上なのか雑な作りで、親も卵も見当たらなかったが。

ひ弱に見えて

芝生野に捩花避けて腹這ひぬ
捩花のあらかた踏まれゐし野道
捩花の錐揉む先のつぼみかな

捩花というのは一回踏まれてしまうと弱いものらしい。

茎と言うよりは錐の穂先に当たるのかもしれないが、途中で折れてしまったらその先は枯れてしまうようである。
ただでさえ短い命で、花が終わってしまうと何処にいたのかさえ分からなくなるような、雑草というには気の毒なくらいな儚げなので、見つけたら注意しているのだが。
ただ、このようにか弱く見えても、次の年にはまた顔を出して錐を伸ばしてくれるあたりは雑草の仲間に入れてもよさそうであるが。