秋の色を待つ

筋雲のきざはし渡る後の月

十三夜はとうに過ぎた。

今年の十三夜はあいにく曇りで姿は拝めなかったが、明くる14日はこれ以上ないくらい澄み切った夜空で、十四日の月に照らされた筋雲が西から東へ流れているのがくっきりと浮かび、それはそれは素晴らしい月と雲のコンビネーションであった。
その後あまり天気には恵まれないようで、ここ数日は夏に戻ったような天気だ。空の具合ももうひとつさえない。ここしばらくは九月の気温が続くらしく、折角長袖に馴染んだというのに今日はTシャツ一枚に逆戻りとなった。夜になってもとくに問題はないようで、室内は夏日の25度を軽く超過。
過ごしやすいのはいいが、紅葉が待たれる今は順調に季節が進むことを期待するばかりである。

しのぶ

白菊や終の紅さし美しき

何年ぶりの化粧だったのだろうか。

薄く紅を施してもらって安からかな寝顔だ。
あの寝顔を思い出すと、若かった母の和服姿が重なって見えてくる。

亡くなったひとはいつまでも美しい。

扇形した雲

難波より大和入りせるかな鰯雲

どうやら鰯雲というのは西から東へ広がるものらしい。

というのは、鰯雲は大和川下流のほうから盆地の空に向かって末広がりになることが多いからだ。
たまには、盆地全体を鱗雲が覆うこともあるが、たいていは生駒山地と金剛山地の間の川筋をつたって広がってくる。
鱗雲は典型的な秋の雲だから高度が高いはずなのだが、盆地への入り口でも一番低い部分を選ぶというのは不思議なものだ。きっと関ヶ原のような隘路みたいなもので、そこだけ空気が早く流れるようになって、雲が吹き込んでくるのではないか。
その結果、まるで河口から逆に広がってくる扇状地のような形となって、見事な扇形となるのだ。
同じように西から扇形に広がってくるものに、飛行機雲、筋雲などもある。

盆地からみて大和川は西方へ流れる黄泉の国への入り口でありと同時に、そこから仏教はじめ様々なものが流入・伝来した、世界への窓でもあるわけで、西から広がる川や雲、空に対して大和の人々は特別の思いがあったのではなかろうか。

幸せ運ぶ鳥来たる

こうのとり飛来の盆地柿の秋
斑鳩にこうのとり来る柿日和

調べたら龍田大社の例大祭は今日だった。

昼食をとって急ぎ社に向かおうとしたら、途中の町役場が大変な騒ぎである。
なんと町内の太鼓台、だんじりが10台以上出ていて、それぞれ荒ぶる演技の真っ最中なのだ。
昨日書いた近くの八幡さんの秋祭りもこれに合わせていたとは知らなんだ。
なかには聞き慣れない「素戔嗚尊神社」の幟もあるので訊いてみると、信貴山の奥にある南畑地区だという。大阪府との境にある、あの高いところからも氏子連が太鼓台を降ろしてきて参加しているのにはびっくり。戻るのはさぞ大変だろうと思いきや、「トラックで運びます」とのこと。
龍田さんも渡御されて、まことに祭日和。

今年は町制50周年の記念の年だという。
町長の挨拶では、一昨日町の大和川に六、七羽のこうのとりが飛来していたとか。

大変めでたい話だが、大阪に隣接しているせいか、50年の間に人口も三倍になった聞けば、この10数台のだんじりが廃れずに維持されているのもまた大変目出度いことである。

秋の例大祭

太鼓台練る坂長し秋祭
宮入は胸突き八丁秋祭
長老のはよから酔うて在祭
秋祭六年生のねびまさり

今日、明日と地区の秋祭りだ。

八幡さんの秋の例大祭で、関西でよく見られる太鼓台を氏子が曳いて町を練るのだ。
初日が宵宮で街中に設けられた旅所に、二日目が本宮で八幡さんに宮入する。
町は大和川から山裾を駆け上がるような傾斜地なので、一番高いところにある八幡さんに曳き上げる本宮が大変な苦行となる。
それだけに、宮入後太鼓台を無事納めたあとの直来は賑やかである。
先導を務めた子供御輿の子供連が、お菓子などもらって早々に引き下がったあとは大人の時間。
長老は乾杯の発声も待てず、とうに泥酔状態。
見物の新住民も手招きされて酒宴の席に。

梵鐘

母の忌を修し一打の秋の鐘

昨日は母の命日。

五回忌に当たるので特別な法要はしないで、母を弔ってもらった寺にお参りだけさせてもらった。
三輪山の平等寺さんには鐘楼があるが、ここは誰が撞いてもよいので、祈りの気持ちをのせて大きな鐘を撞かせてもらった。境内はもちろん、寺の前の山辺の道を行く人にまで十分届くような素晴らしい響きで、自身もしばらくその余韻のなかに身を委ねることができた。

古さの残る

コンバイン公道行ける豊の秋
収穫や県道塞ぐコンバイン
レンタルの農機出払ひ豊の秋

「収穫」と書いて「とりいれ」と読む。

「稲刈」の傍題である。
(俳句では名詞には送りかなをつけないのが原則である。動詞「稲刈る」の連用形「稲刈り」と区別するためである。)

今、大和盆地は稲刈りの真っ最中。この週末はおそらくピークを迎えると思えるが、今週は天気がちょっと心配なところ。
田の広さに比べるとえらく立派なコンバインが、あちらこちらの田で見かける。飛鳥や三輪方面に行くとき必ず通る県道には某農機メーカーの営業所があるのだが、いつもなら機械がいっぱい並んでるヤードが今日はほとんど空っぽ、農機は出払っているようである。
県道の何カ所かにはコンバインが県道を通ったり横切った跡とみえて、泥が点々とこぼれていたし、稲刈りを終えたコンバインや軽トラが渋滞を引き起こしたり、それでも誰も文句を言わない。

春や秋には公道をナンバーのない耕運機が何事もないような顔をして、のんびりと堂々と行き帰りする。大和にはまだまだ古い部分が残っている。