川筋の影

川筋を足をとめては花雪洞
誓願文鎮魂の文花行灯

佐保川の雪洞およそ150基。

四面に市民から寄せられた絵やメッセージが書かれている。
県内あるいは県外から募集したものだが、桜まつり燈火会の雪洞だ。
ビニールでしっかり囲われ期間中の雨対策も施してある。

吟行は昼間だったので、掲句は想像で作ったもの。
ニュースでは県外からの花見客が多かったようで、昼におとらず賑やかな光景を思い描いてみた。

散りはじめ

花筏組初む堰の汀かな

桜が散り始めたばかりである。

佐保川にはらはらかかる花屑だが、いまだ花筏と呼べるほどの量はない。
ただ、両岸の岸、堰の溜まりなどには花びら集まってきている。これがさらに溜まってくるようになると、下流に押しだして筏の体をなしてゆくことだろう。
今は汀の花びらは筏を組み始めたばかりのように見える。

今日は平群の山裾の桜が遠目にも見事だったので、近くまで回り道してみた。
桜にすっぽり包まれたような小学校だった。
この時さあっと風が吹いたようで、見事な花吹雪。
やはり、学校には桜がよく似合う。

桜は人を若くする

飛石を苦もなく跳びし桜人

佐保川の両岸は万朶の桜。

川面にも映えて、天地すべてが桜色に染まる一日だった。
水際に降りて遊べる区域もあって、そこに腰掛けていたら対岸から呼ぶ声がする。
飛び石伝いに渡った句友である。
決してお若くはないのに、もしかすると桜は人を若くするのかもしれない。

地上の星

禁足のロープの内の犬ふぐり

平城京跡は一面草が青み始めていた。

関連する季語で言えば、「下萌ゆ」「草青む」「踏青」「仏の座」「蓬」、そして掲句の「犬ふぐり」もある。
工事中、保護エリアなど立入が許されない場所も多いが、あの広い平城宮跡である。すべてには目や手入れが行き届かないのは当然であろう。
禁足のロープに沿って、犬ふぐりが点々と青い星をこぼしている場所も数知れずあった。足下には、地上の星、地上の小宇宙が広がっている。

覗きたい衝動

春の水湛へ古刹の隠れ井戸
隠れ井の意表ついたる春の水
思はざる古井の底の春の水
隠れ井の桁のあえかに春の水

伏せてあるものは覗きたくなるもの。

元興寺裏手に回ると小さな井戸があって、竹に似せた蓋が載っている。
何にでも好奇心が強い吟行子が開けてみると。。。

涸れ井戸と思いきや、実はりっぱな現役とも思われる水量。
その面には明るい空が映って、水も柔らかそうだった。

鬼は内

石塔の影整然と日脚伸ぶ

元興寺には「浮図田」と呼ばれる石仏群がある。

整列した石仏の間に落ちる影もまた整然とくっきりと、光も力を増してきたようである。
全部で千基ほどはあろうか、その間を巡る間にも、ところどころに、石仏に寄り添うように万両が紅い実を見せたり、紅や白、絞りの寒椿が影をつくったり、落椿に埋もれるようなところもある。
一つ一つ表情が違っていて、時間をかけて廻っても見飽きない趣があった。

お地蔵と背比べもし実万両
小仏にお手玉しんじよ実万両

豆撒の舞台験む頭かな
節分の設へ幕を残すのみ
幔幕を張つて節分舞台成る

この寺には「元興神(がごぜ)」と呼ばれる鬼が守っていると伝えられ、豆撒きのかけ声は「鬼は内」。吉野の金峯山寺も同じように「鬼は内」、大神神社はご神体が山であることから「鬼は山」というとか。

参考)元興寺節分柴燈護摩会のページ

冬の意外な顔

堂縁に燭台拭ひ節分会

久しぶりの吟行。

明日の追儺会に備える元興寺を詠もうという趣向である。
豆撒きの舞台や、火渡りがおこなわれる護摩壇の設営の他、会場保護の仮囲いなど、いろんな職種の人たちが忙しそうにしている。
吟行子はそれらの作業の邪魔にならないように、時間をかけて境内を一巡。
境内のいたるところに水仙、紅白の椿が咲き、万両、千両が実をつけている。早咲きの梅は早くも終盤を迎えていたりして、萩の寺として有名な元興寺の冬は、意外にも花の寺であった。