古代に触れる

青鷺の森となりける御陵かな

全長220メートルを超える堂々とした御陵である。

第11代垂仁天皇陵は、外壕の中に田道間守の墓とされる小島があることが特徴だ。
水をいっぱいに湛えた壕には餌が多いらしく、カイツブリや川鵜が次々に水もぐったりしている。また、墳丘に繁った木は青鷺のコロニーになっているようで、何羽かが木の上にまるで飾り付けのようにじっとたたずんでいるのが見える。

この垂仁天皇というのは、皇后の亡くなったとき殉死をやめさせ代わりに埴輪を作らせたり、皇女の倭姫に天照大神の祭祀を命じたりしたとされるが、さらに相撲の発祥になったと伝えられる野見宿禰と当麻蹴速の闘いもこの天皇の前で行われている。
宮内庁による陵の名は「菅原伏見東陵」ということから分かるとおり、ここら一帯は後世に土師氏の支流・菅原氏の本貫地となっており、あの道真も当地で生まれたとされている。

ちょっと足を伸ばしただけで、古代に触れられるのも奈良らしくていい。

飛行機の神様

翡翠の谷津の木道かすめけり

県立民俗博物館は矢田丘陵の谷津を形成した麓にある。

博物館は県内の昔からの生活や風土を紹介する展示物があって、盆地の暮らし、山の暮らし、難波との物資交流などなまざまな歴史を知ることができるが、広い敷地には他に古い民家、商家を移築したものや梅園などもあって散歩に出かけてくる人も多い。
谷津となった部分には池や花菖蒲園があり、その周囲の森を巡る木道は木陰が心地よい。この池にはカイツブリのほかカワセミも棲みついているらしく、木道を歩いていたらすぐ近くを特徴ある鳴き声とともに碧い鳥がかすめ飛んだ。
谷津を流れる小川や湿地にひそむ餌を狙っているようだ。

昨日興福院で半夏生を見た返りに立ち寄ったのだが、よくここに来るという人に聞いたら、すぐ近くの矢田坐久志玉比古神社(やたにいますくしたまひこじんじゃ)の近くにビオトープみたいなものがあるらしく、そこでは半夏生も咲いてるよと教えてくれた。
この神社は神話から飛行機の神様として知られており、以前から一度行こうと思っていたところなので、近いうちに行ってみようと思った。

尼寺の静寂と

半夏生庵主の住まひ給へりて
半夏生尼寺の壁に映えにけり
半夏生葉先の化粧(けわい)残したる

今日は夏至から11日目、半夏生である。

同名の草花・半夏生を調べてみると奈良県では準絶滅危惧種に指定されているとのこと。
三重県境の御杖村の棚田を利用した岡田の谷の半夏生園という景観資産があるが、いかんせん遠いので近くでないか調べると、果たして奈良市内の興福院(こんぶいん)という尼寺の門前にあるという。早速訪ねてみると今がちょうど盛りで、白い穂が伸びて小さな花をつけている。この花を有名にしたのは、どちらかと言えばこの花よりも葉で、上から数枚の表面が根元からだんだん白く変色してついには前面真っ白になることから「化粧花」とも呼ばれる。
すぐ近くにはいっこうに鳴き止まない鶯、そして半夏生の群れが尼寺の白壁と相呼応しているかのようだった。

興福院の半夏生

7,8月は興福院は非公開で門は閉ざされていて鶯の他は何も聞こえない静寂の中にあるが、門前の池には立ち入ることができる。
もうずいぶんな人が見物に来たと見えて、池の周囲は草の踏みしだかれた跡がおびただしい。中には足許に注意を払わなかった人もいたらしく、踏まれたのであろう捩花があわれな姿をさらしていた。

災害の記憶

堰堤の耐へて出水を免るる
冠水の標に出水の歴史知る
この町の出水の証冠水線

昨夜から昼にかけてずいぶん降った。

奈良盆地にこれだけの雨を降らすのは久しぶりだ。
盆地のあらゆる支流の雨水を集める大和川はかつて氾濫しやすい川だったが、長年にわたる護岸工事などで最近は被害も少なくなった。
ただ、全国何処でも同じだろうが、コンクリートで固めたため雨水は地中に染みこまず、降ればすぐに川の水位を押し上げる怖さがある。いったん雨水を逃がすクッションの役割をになう堰堤などがあると大きな被害を防ぐ効果はあるが、最近の雨の降りようは尋常ではなく、想定レベルを超えて大災害につながりかねない例を毎年のように見る。

今日の雨は何とか耐えたが、大和川は恐ろしいまでの増水であった。
大合流して一本の川となるあたりでは、30年ほど前に大洪水の被害に遭っている。その時の水位を標識にきざんでいるのも、災害の記憶を風化させないためのものであろう。

名花の小道具

花の綿そよいで合歓の風を呼ぶ
合歓の花蘇州夜曲の羽扇

合歓の花もそろそろ終わるかという頃である。

森の中の合歓の花

あの特徴ある花を近くでのぞいてみた。まるで宝塚のダンサーの髪飾りのようでもあり、懐かしくもあの李香蘭が歌い出しにスポットライトがあたった扇から顔をのぞかせるという、演出効果たっぷりの小道具としての羽扇のようにも見える。なんとも優美でいて派手でもある花である。

歌手としてよりも議員としての活動の方がおそらく長いが、やはり山口淑子ではなく李香蘭のほうが印象に強い。

夏の準備

どくだみに植え込みの隙つかれたる

今日は初夏の陽気。

気温こそ30度近くにまでのぼったが、空気が乾燥していて気持ちがいいので、久しぶりに馬見丘陵を歩くことにした。
墳丘の杭に張られたロープに子燕が並んで親の給餌を待つ光景や、もうしっかり大きくなった橡の実を見ることができたし、木槿、桔梗や女郎花の黄色い花がもう咲き始めているのも発見した。
先日まで花菖蒲、紫陽花の公園だったのに季節はみるみるその景色を変えてゆく。
花壇では八月に咲かせる花の植栽、そして水やりが行われ、夏本番に向けた作業が急ピッチである。

暑さにバテないよう、しっかり汗をかける体を作らなければいけないと思った。

繕う

とろ舟の余り苗曳く田守かな

植えた苗がうまく根付いているかどうか調べているようだ。

紐の付いたとろ舟に余り苗を乗せ、田の泥の中を曳いている。機械ではうまく植えられなかったり、生育が思わしくないところを植え足しているのであろうか。