空気一変

夕立の戸を叩くこと二十分

来るぞ、来るぞ。

西から真っ黒な雲が近づいてくる。
町のアラートでは豪雨と出ている。
やがて家の前の電線が揺れ、雨が窓、玄関ドアを激しくたたきだす。
稲光、そして雷鳴。お決まりの夕立だが、これは北九州に甚大な被害を与えている長い前線に向かって四国の方面からやってきた雨のようだ。
夕立去って、それまでの息苦しいほどの蒸し暑さはいったい何処へ行ったのかと思う涼しさになったのはいいが、プランターや鉢ものがみななぎ倒されてその片付けもままならない。朝に持ち越しである。

落差

降りて照り照つては降りて溽暑かな

この蒸し暑さ。

耐えられず、昼には早々と冷房を入れた。
雨がざあーっと来たかと思うと、そのあとかあーっと晴れる。
そんな繰り返しで、これでもかというくらい蒸しが増してくる。
降った雨がすぐに水蒸気となって大気に放出されるのが原因だ。こういう日は一年でもそう多くはない。
だから、冷房の部屋にいる間はいいのだが外との落差がそれだけ大きく、長くはいられないのも情けない。
梅雨明け後の暑さもこたえるが、今日の暑さよりはずっとましだと思う一日である。

うそぶく

肌脱ぎてかつて自慢の胸の板

ちょっと動いただけでべたべたした汗がつきまとう。

典型的な日本の夏の暑さである。こんな辱暑と言っていい時期にやれインバウンド、アウトバウンドだと言って観光にくる外国人も驚いているのではなかろうか。
旅行などとんと縁の薄くなったこちらには近所へ出るだけで滝汗が流れて往生してしまう。
家に戻れば誰はばかることなく上半身裸になって身拭い。そうして濡れタオルを羽織ったまま気化熱という奴を肌で感じる半時間ほど。みるみる火照った体が覚めていくのを感じながら極楽、極楽。
鏡を見ればよくよく胸の筋肉も落ちて、これが老残の醜ささとうそぶくものの。

蝉はまだか

濡れタヲル肩に乗つたる暑さかな

雨が来るのが湿気で分かる日だった。

夕方までは50数パーセント台の湿度で、30度を軽く超える気温で暑くはあったが家の中にいるかぎりはむしろ爽やかな風に恵まれていた。
夕方になって日陰ってきたので収穫に出かけたが、案の定雨がぽちぽちと当たる頃にはもう湿気が体にまとわりついて蒸し暑くてたまらない。昔ながらに冷たいタオルで体を拭き、上半身裸のまま冷房、扇風機に当たる。30分ほどしてようやく人心地ついたのであるが、そう言えば今年はまだ蝉の声を聞いてないことに気づいた。
いつもの夏なら朝からクマゼミがやかましいほど聞こえるのだが、聞こえるのは鶯ばかり。今年は蝉が少ないのだろうか。それともまだ暑さが足りないと言っているのだろうか。
いれば煩くてたまらないのだが、いないとこれもまた寂しいものである。

固い風

ノベルティ団扇はプラの骨にして

あれこれ整理していたら団扇が出てきた。

かつては一家に何本もあって、風を送るだけでなく虫を追いやったり、叩いて喜んだり、さまざまな使い方をしたものだが、扇風機、エアコンの普及とともに一気に姿を消してしまった。
不要品の中から姿を現したプラ骨の団扇は、おそらくそうした家庭内の使用を想定したものでなく、野外の何かのイベントで配られたものと思われる。さらに、プラ製なのでその場で捨てるわけにもいかず持ち帰ったものであろう。
あおってみたが心なしかプラの風は固いように感じた。

再発不安

太鼓判受けし奥歯に胡瓜食む

昨日は歯科健診の日。

先月からずっと左奥歯で固いものが噛みきれなかったので心配していたが、気がつくといつの間にかそれも解消していた。
で、ちょうど噛む力をテストする予定だったらしく、くつわ型をしたものをおもいきり噛んでくださいと言われそのまま踏ん張ると、なんと標準375のところ642あると出た。
およそ標準の倍ある数値で我ながら驚くやら嬉しいやら。先月ずっと悩んでいたあの心細さはなんだったろうかと思うばかりである。
しかし、油断するとまた再発するかもしれず単純に喜んでばかりはいられない。細心の歯磨き、手入れの継続を忘れてはなるまい。

晩生

合歓咲いて峠いくつも伊賀国

つくづく合歓の花の盆地だと思う。

伊賀の峠はどこもいま合歓の花盛りだ。
翁が象潟で詠んだ、
象潟や雨に西施がねぶの花 芭蕉
が合歓の花の代表句である、合歓の花の描写がいっさいなくて唐突に出てくる花が実景かどうか知らないが、単に「ねぶ」に眠るをかけたかっただけじゃないのかと推測している。奥の細道は相当な部分が創作だから、まんざら外れではないだろう。
また、伊賀で身近であった合歓の花が伏線になっていたとも言えるのではないかとも思える。
ところで、合歓の花の盛りを過ぎる頃に豆を蒔けと古くから言われてきた。
この豆とは大豆のことである。日本人は枝豆が好きだから早生タイプの豆を莢の若いうちに収穫するが、枝豆用は4月ごろ蒔くものである。
短日性が強い丹波の黒豆も7月中旬ごろが植えごろだそうである。これは、晩生。