十六大角豆

盆野菜間に合ふやうに育ちけり

山村の畑でいろいろな野菜が作られていた。

なかでも目を惹いたのが「十六大角豆(ささげ)」とよばれる長さ30センチ以上はあるかという大角豆である。その名の通り、一本の莢の中に10数個の実が入っているもので、お話をうかがうと盆の棚に供える予定だという。食べたことはないが莢ごと食べられるくらい柔らかいそうである。

間もなく帰省してくる子や孫の食べさせる予定のトウモロコシや西瓜なども立派に育って、盆準備もすっかり整った。

一足早い秋

山村の岩を堰とすプールかな
寒村の水場に遊ぶ子のなくて

吉野川源流・高見川のあたりに吟行した。

このあたりは東吉野村といって、かなり前から俳人・俳徒にとって聖地ともされる村である。村内のかしこに著名な俳人の句碑が建ち、多くの俳人が訪れる。そのなかでも、「天好園」という山の宿を知らぬものはもぐりだと言われるくらい有名な館で、ここで句会もよく開かれている。
属する結社でも昨年5月余花の頃にここで吟行句会が開かれ、ことしは万緑、というより晩夏の時期に訪れることになった。

山の奥で、清流は流れているし、蝉や虫の声、いろいろな草木もあるので四季折々に句材には尽きないものがありそうだ。

青芒活けて迎へる山の宿
青芒深山の客を迎へけり

かなり奥になるので大和盆地に比べ随分涼しい。昼頃には天気もずんずんよくなって青空が広がり流れる雲も高い。ここには一足早く秋がきているようだ。

味消し

作務僧の姉さんかぶり花菖蒲

作務衣を着て姉さんかぶり。

若いので学僧なのだろう。同じく唐招提寺の若い職員に混じって、花菖蒲の束を剪り整えている。仏様に供える供華の準備をしているようだ。

おりしも翌日から鑑真和上の忌に因んだ開山忌舎利会が始まろうという日の光景であった。

掲句もボツの句。元の句は先日の、

作務僧の供華に剪りつむ花菖蒲

「剪りつむ」では味消しか。「整ふ」のほうがよかったかな。

御廟

清域に唸るエンジン草刈らる

俳句会で主宰選ボツになった句。

今日主宰選の結果が葉書で届いた。
実際の投句は、

エンジンの響く聖域草刈らる

鑑真御廟の静謐な空気を破って、草刈り機のエンジン音が鳴り響く。そのギャップを表現したかったのだが。

リラックス

木下闇出で来る歩みのすずろなる

夏の木陰は心地いい。

鑑真廟は唐招提寺の奥の奥にあり、深い木立に覆われている。
しばらくその中にいると心中までもリラックスするのか、木陰出てくる人の歩みはどこか悠然としていて、表情も大変豊かである。

蜜蜂

供へばや泰山木の花を香を
花あひのうごめく虫や泰山木

礼堂の間の通路(馬道)を抜けると宝蔵のある庭に出る。
泰山木の花
その一画に背の低い泰山木の木があり、おりしも花の時期とあって吟行仲間が吸い寄せられるようにして花のまわりに集まっている。ちょうど顔の高さにあるものがあっていい香りを放っている。こんな間近に目にすることは滅多にないので、顔を近づけて嗅いだり、手にとって花弁の感触を確かめたり、カメラに撮るものもいたりする。
この花というのは、普通なら見上げるような高い位置に咲くので花心など滅多に見られないが、今日は手に取るように分かる。大ぶりな花心に蜜蜂も何匹か同時に群がっていたりもする。

講堂の陰で

足元に未央柳と教へらる

黄の高さは一メートルもないだろう。

大伽藍、講堂に見とれていて、うっかりすると見落としそうな場所に、吟行仲間の人々が口々に「未央柳(びようやなぎ)」と足を止める。ぴんと伸びた雄しべが特徴で、名も姿もいかにも中国から渡ってきたような花だ。先々週多武峰のハイキングで教わった金糸梅によく似ているが、やっぱり未央柳は雄しべがよく目立つので間違うことはないだろう。