自己点検

横持ちの傘の切つ先五月晴

小さな子供が怪我をする危険があるという。

歩くと知らずと傘を持った腕を振るものだが、これが後続の子供の目などを傷つける事故につながると。
なるほどと思ったのが、たまたま見た朝のテレビの警告である。
電車のなかでは傘をきちんとたたんでベルトでしっかり止めましょうという呼びかけはあるが、その使わない傘をどうやって持ち歩くかは人さまざまで、こうしなければいけないというルールもマナー上の約束事もない。
うっかり傘の真ん中を持って歩いてないか、自己点検の必要がありそうだ。

風通し

徒長枝をぬいて狭庭の夏用意

今日は枝垂れ梅をすっきりさせた。

すると今まで徒長枝などで遮られて見えなかった実梅がごっそりと姿を現した。
この枝垂れは曽我梅林で苗を買い求めたもので、引っ越しとともに東京から移植したもでのある。毎年赤い花を楽しませてくれるが、あまり実がついたことはなかった。たまに着いてもいわゆる小梅程度で食用にすることなど思いもつかなかったのである。
ところが、今年のは直径2〜3センチもあって、数が揃えばシロップにもできるほどもある。ただ、いかんせん一キロにも満たない量なので、さあ、どうしたものかと思案している。
白梅の方も枝抜きをしてさっぱり夏化粧。
風通しもよくなって、なにより庭の一画が少し明るくなったようだ。梅のために窮屈な思いをしていた紫陽花たちがなにやら嬉しそうである。

滑舌

許可局とはつきり聞こゆほととぎす

まだこの辺りにとどまっているようだ。

菜園に着くなり棚田の奥のほうから時鳥の声が聞こえてきた。それも今日のはかなり明瞭だ。
「トッキョキョカキョク」と啼くと言われるが、まさにそれなのである。とくに「キョカキョク」の部分がしっかりそのように聞こえてしばらく聞き惚れた。
さっそく真似して「トッキョキョカキョク」と言おうとしたが、全然舌が廻らない。早口言葉、滑舌の練習にも用いられるフレーズだが、いくつになっても上手にはなれないでいる。
日本語の特徴として、舌や、口の周りの筋肉などはあまり使わないこともあって、このフレーズは平坦に流そうとするとまず無理のようである。「オ」の音が多いのでそれを意識して唇を縦に突き出すようにチャレンジすると意外にうまくいくようである。試しに、まずは最初の「ト」から口をすぼめて始めると意外に後が続く。お試しあれ。

鳥肌

長じるも恐竜よくて蜥蜴だめ

目の前を蜥蜴が走った。

身の毛がよだつとまではいかないが、蛇、蜥蜴の類いは苦手である。いわゆる爬虫類に属するが、同じ爬虫類でもこの世にはいないと分かっている恐竜は好きである。
ただし、恐竜を先祖とする鳥類、遠くから見るにはいいが、あの目、あの足を見るといけない。恐竜の目、恐竜の肌なのである。だから、鶏肉はいまだに食べられないときた。

裏表

軒下にあれこれ吊るし女梅雨

何もかも梅雨湿りして鬱陶しいったらありゃしない。

まったく気の抜けない梅雨である。止んだかと思うとまたそぼ降って、かと言ってその雨は長続きもしなければ止んでも決して晴れてはこない。何をするにも、何処へ行くにも雨の覚悟、用意の要る日がつづいている。
これを女梅雨と言うのだろう。梅雨があっけなく終わってしまった昨年とは大違いの今年である。
おかげで紫陽花はすこぶる色つやもいいし、日陰を好む茗荷も生き生きとしている。
どちらかが立てばどちらかが凹む。物事にはすべて表裏があるということのようである。

健気

ひしめきて黄ばむばかりの余り苗

それにしても大量に余ったものだ。

その余った苗を一カ所に集めたらこんなになったのだろう。
機械植え用の苗床というのはサイズが決まっていて、30センチ×60センチくらいの大きさに統一されている。それがそのまま固まりのまま田の隅に植えられているようである。
どの苗も肥料も切れて黄ばみはじめていて、いつ出番ともしれない哀れを伴う。
一方の植えられた方はと言えば、苗代の窮屈さから解放されて、生き生きと緑の葉を伸ばしている。
余り苗が使われることがないのはもちろん農家にとっては一番いいのであるが、成長もできず片隅で肩寄せ合ってほそぼそと生きているのも健気なことよと思うのである。

情けが徒か

髪切虫まだらに免じ赦しけり

髪切り虫を庭に見つけた。

人目には胡麻斑模様が美しく、長い触角を左右に振りかざしているので可愛いと思うかもしれないが、これが厄介な虫なのである。
名前の通り鋭い歯をもっているようで、固いものでもかみ砕く顎の力がすごい。樹木に産みつけられた卵から孵ると、木の中に穴を開けてあの成虫が現れる。それが梅雨時の今ごろなのである。
二三年前に珍しい楓を鉢に育てていたのが急に枯れてきたのもこいつの仕業と知った。
というのも、枯れる前にはおびただしい木屑(これが最初は何の粉なのか、まさか髪切虫がせっせと木の根元に穴を開けているとはつゆ知らなかったのだが)が木の根元に盛り上がっていて、たいして気にもとめずにいたらその翌年ぱたりと枯死したわけである。
産卵時期は秋だと言うから、その前に見つけ次第始末したらいいのだがどの木が気に入れられるか分からないし、もしかしたらどこかへ行くかもしれないと見逃すことにしたのだが。情けが徒とならないことを祈るばかりである。