風化

語り部を継いで二代目原爆忌

総理と原爆被害者の会との会談の何と虚しいことか。

悲痛な希求に対する答えが国会答弁のそれと全く同じとは。
悲惨な体験から叫びに近いリアルな言葉に対して、空虚にしか聞こえない為政者の言葉、態度のギャップを見て、これ以上この国を冒険主義的な人々によって先導されないことを願うばかりである。

アメリカとかつて戦ったことさえ知らない若者がいることに唖然とさせられたが、唯一の被爆国であることもまた風化して行くのであろうか。

瓜を食む

捨てるには惜しき香りの瓜のわた

立秋が過ぎてもなかなか秋の句を詠む気にならない。

夏の題なら材料にまだまだ事欠かないほど、秋にはほど遠く暑い日が続いている。
まことに残暑ますます厳しい折りである。

雷雨が止んで

軒の下なれば雷鳴聞き惚れる

久しぶりの雷雨だった。

昼寝を貪っていた猫たちも起き出してきては落ち着かない様子だ。
衛星テレビも電波障害で見えなくなるほどの激しさ。
最近はデータ放送で雨雲の様子が見えるのでさっそく調べてみたところ、これは当分続きそうだと分かる。雲の行く先はどうやら甲子園球場方面。案の定しばらくしたら今日の第四試合は雨で中断。
便利なものである。

激しい雨が一時間くらい降ってくれたせいか、雨が上がると空気がすっかり入れ替わった感じでぐっと涼しくなった。
今日は立秋。雷鳴がもたらした、新涼であろうか。

法師蝉も

本尊を遠巻きにして蝉時雨

浄瑠璃寺の池の東方の一段高くなったところに三重塔がある。

丹塗りが大変美しい国宝である。
ここに本尊の薬師如来像が納められているが、吟行当日は公開されてないので外から拝むことしかできない。
後背の山からは遠慮がちな蝉の声。なかには法師蝉も混じっているようである。

大きな紅葉の木の先端はすでに紅葉が始まっているようで,丹塗りの塔を借景に透けるように美しい。

杓子定規もどうか

出るまでは入れぬ冷房始発バス

社の規則なんだろうが少しは融通があってもよくはないか。

炎天下に列を作って始発バスを待っていたのが、いよいよ来たというので乗り込んではみたものの、イドリングストップというんだろうかエンジンを切るので冷房も送風も全くない車内に取り残されてしまった。
5日連続猛暑日という記録的な暑さに、出発まで5分とない短い時間でも車内の温度はうなぎ登りに上がり汗が流れるように吹き出してくる。

エコバスの羽打ちせわしき扇子かな

それでも、句会メンバーだけで満席のバスでは扇子が波打った。

昼の虫も

荘厳を排し涼しき九体仏

今日は36度予想のなか浄瑠璃寺への吟行。

奈良の市街を離れ京都南端の当尾(とうの)の里にしずもる寺の境内に入ると、大きな浄土池もあって幾らか涼しくて救われる思いがした。
平安貴族によって九品往生の思想がひろく信仰され多くの九体仏が作られたが、当時のものが現存するのはここ浄瑠璃寺だけで、本堂、九体仏とも国宝という見かけからは想像もできない何とも豪勢なお寺である。

掲句の荘厳(しょうごん)というのは、仏の頭上に天蓋をかけたりしてして飾ることを言うが、ここの九体仏さんにはそのような飾りはなく、建物自体も天井板を張らず屋根材が丸見えの質素なしつらえである。九体の如来さんたちがその薄暗い本堂に半眼を開いて着座されていて、外の炎暑はどこへやらしばし涼しいときに満たされる。

吟行を終えてバスを待つ間、蜩が見送ってくれた。もう秋はそこまで来ているようだ。

蒸せる街歩き

片陰に老母いざなひ二人旅

片陰を選んでもコンクリートで固められた街を歩くのは容易ではない。

それでも、直接陽に当たるよりかは幾分かは救いとなる。
奈良町などではさすがに真昼時は人通りがすこしばかり減るが、この街を目当てにくる観光客も多く、路地から路地へ少しでも陰を選ぶように散策しているようだ。