宮址の花

レンタルの自転車列ね姫女菀

飛鳥の野はヒメジョオンの盛りである。

畦道、川沿い、いたるところに白くて可愛い花を散らせている。
平城京大極殿裏あたりも多いし、昨日訪れた藤原京跡にもよく見られた。
外来の植物だと言うが、案外古い宮址に似合う花なのかもしれない。

藤原京跡にて

発掘の手の休むなく行行子

地味ながら藤原京跡の発掘作業が続けられている。

藤原京
藤原京跡から天の香具山を望む

まだ手つかずと見えて葦の原になっているところもあり、姿は見えないがオオヨシキリと思われる賑やかな声が聞こえる。そばまで行って確かめようとするのだが、さすがに近づくと鳴きを止めてしまう。
足許のオオヨシキリ、頭上には雲雀が賑やかな、藤原京跡の夏である。

古社にて

浄域の箒目深し樫落葉

人跡のすくない別社では境内の箒目も鮮明だ。

写真にうまく撮れれば雰囲気がわかってもらえるのだろうが、あまりにも清らかな様子に足を踏み入れるのさえためらわれるほどだ。
前日の風雨で樫や椎などの古い葉がおびただしく散っていて、風に揺れる木洩れ日がそれらのうえを優しく撫でている。

川風涼し

自転車の背を押す茅花流しかな

今日は一日キヨノリ君ご夫妻と飛鳥ポタリング。

朝のうちは台風の余波のせいかどうか時折強い風が吹いていたが、やがて適度な初夏の風となって汗ばむことなく実に快適な一日だった。ただ日差しは強いので今でも顔や腕などはほてり気味だ。どうやら、たっぷりUV光線を浴びたようだ。

今日はなるたけアップダウンの少ないようにルートを吟味したが、それでも岡寺への急坂は難所だ。こんなこともあろうかと電動自転車をレンタルしたのが当たりだった。脱落するママチャリ組を尻目にかなりのところまで登ったが、下馬指示のところで顔を上げるとはるか高みに三重塔が見えるではないか。考えるまでもなくすぐUターンとなった。

飛鳥の野に目をやると至る所にヒメジオンが咲き乱れ、川沿いには茅萱の白い穂が風になびいている。季題「茅花(つばな)流し」とは、茅萱がしろい絮をつける頃吹く南風のこと。今日はバッテリーの力と茅花流しの追い風に助けられて無事予定のルートを完走できたのは幸いだった。

飛鳥川のカワセミが見られなかったのは残念だったが、川沿いの木陰の道を吹き抜ける風は涼しかった。
キヨノリ君、また遊ぼうね。

采女の袖吹き返す

若葉風明日香の幣の揺れやまず

昨日は半日だけの飛鳥散策。

飛鳥坐神社

明日高校同窓生K君ご夫妻に飛鳥を案内するための現地調査を兼ねている。最近股関節の具合がよくなく、果たして無事に甘樫丘に登れるかを確かめるのも重要な目的。登り口はいくつかあるが、もっともなだらかなルートならば、ゆっくりゆけば何とかなりそうだ。
K君とはブログで毎日のように励ましのコメントを書いてくれるキヨノリ君のことで、今週ご夫婦で奈良、斑鳩、西の京など大和各地を回られている。折悪しく台風6号襲来で、今日などあいにく雨が降ったりやんだりしているが、ピークは今夜で明日朝にはもう抜けるという予報なので明日の飛鳥散策には支障ないと思われる。

明日のルートとしては、甘樫丘を降りてから飛鳥寺を経由して万葉文化館へ向かう予定。ここは一つ上の高いところを通る多武峰側の道にあっていつもなら車だが、明日はレンタサイクルの予定なので最短のルートを確認するべく飛鳥寺東の細道へ。そのとき今まで訪ねたことはない「飛鳥坐神社」の鳥居が目に飛び込んできたので迷わず立ち寄ることことにした。
ここは春の御田植祭(おんだまつり)で夫婦和合の踊りを捧げる奇祭の社としても有名で、いつかは行かなきゃと思っていたからである。子孫繁栄、子授かりの神としても有名な神様だ。

絵馬には子宝に恵まれるようにと

結びの神石

家族の健康を祈願して辞した。

掲句は志貴皇子の歌碑が甘樫丘登り道の途中にあったのに触発されて。

采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く
 (萬葉集巻1-51)

大パノラマ

睡蓮の咲きそめモネの美術館
山荘の美術館辞し橡の花

アサヒビール大山崎山荘美術館へ。

山崎駅すぐの踏切を渡るともう天王山への登り口である。
美術館は山の麓にあるというものの、木津・宇治・桂川大合流の素晴らしい眺望が得られると聞いたのでそれなりの登坂は覚悟しなければならないと思った。

やはり最初の50メートルほどは胸突き八丁の急登坂。最近股関節の具合がよくなくて、とくに登りが辛い。すぐに痺れてくるので休み休み、喘ぎあえぎしながらようやく2百メートルほどの山道を登った。
山荘まですっかり新樹の道であるが、山荘の入り口にあたる「琅玕洞 (ろうかんどう)」という門を擬したトンネルをくぐるとさらにまた素晴らしい庭園への誘い。山崎の合戦のおり秀吉が陣を敷いたという宝積寺も隣り合っていて、重文・三重塔が隠れ隠れに見える道である。
サイトの庭園ガイドを見てもその素晴らしさは容易に想像できるのではないだろうか。

大山崎山荘美術館の睡蓮

館内ではモネの「睡蓮」四幅に酔い、池を見ればもう睡蓮の花が一輪咲いている。三川合流、そしてその向こうの石清水八幡さんの大パノラマをバルコニーから眺め、館内の喫茶店で珈琲で一幅。

紅橡の木の花
美術館の外に出れば、盛りを過ぎたとはいえ姫橡の木の紅い花が見送ってくれた。

ウィスキーがお好きでしょ

椎の花モルト生まるる香に咽び

東海道線山崎駅ホームに降りたつと強烈な椎の花の香り。

天王山がそそり立つようにホームを見下ろしている。仰げば山のところどころが椎の花とおぼしく、白く盛り上がっている。
昨日は高校同級生のI君のお世話になってサントリー山崎蒸留所の工場見学会だ。I君は同社で長年勤務し、今も系列企業の幹部。同窓会と言えばなにかと彼のお世話になることが多い。俳句仲間でもあり、ときに放つ粋な句は彼の鷹揚とした人となりを語るものである。

この日は地元関西から13人、本拠地三重県から23人、総勢36人のちょっとした同窓会である。なかには卒業後50年ぶりに再会を果たして名前を確認し合う場面もあった。

琥珀色の魔力

サントリー山崎蒸留所と言えば、あの世界に誇る「響」「山崎」の故郷。JR線に沿って車窓からもよく見えて、同社の宣伝ポスターなどでもおなじみの光景である。木津・宇治・桂三川の合流するところ、後背の天王山がもたらす天然の名水「離宮の水」や適度な気温・湿度などウィスキー生産には最適な立地だと言う。
工場に一歩足を踏み入れただけでもう甘い麦芽の香が立ちこめる。蒸留ポットが薄暗い光に輝くさまが美しい。

サントリー山崎蒸留所

約一時間の見学には試飲タイムも含まれて、「山崎」のハイボールが絶妙の味。家庭で単純に混ぜ合わせるだけではなかなか出せない味で作り方にも作法があるらしい。ハイボールは最近若い人の間で人気だと聞くが、巷の店でこれくらいうまく飲ませる店というものは今まで出会ったことはない。

ここ山崎は、鎌倉時代から戦国時代にかけて石清水八幡宮の神人たちによる「大山崎油座」が、畿内において独占的な権益を占め権勢をふるったとされ、そんな油の歴史と関係があるのかどうか同地の老舗天麩羅店で昼食会だ。
近所には油の神様をまつった離宮八幡という神社もあるらしいが、散会後宇治に寄るという三重県組と別れ関西組はアサヒビール大山崎山荘美術館へ。レポートはまた明日。